会長はメイド様!

□君の隣にいつまでも
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.....夢を見たんだ


何年か前に


父親が家を出ていった時の夢を...


もう帰ってこないことを信じたくなくて




ずっと待っていた時の


寂しくて



悲しくて.....

涙が枯れてしまうほど、








泣いた






あの時の夢を......











――――――
今日は文化祭の打ち上げ

クラスの生徒たちと夜に集まることになった



「男子と学校の外で集まるなんて思わなかったよ」
「いやぁ、折角文化祭も大成功したんだし?女子とも仲良くやってかなきゃ楽しくねぇじゃん」

美咲が会長となってから、星華の雰囲気も変わった

今では男女の距離も近くなり、今日は何とクラスの皆で文化祭の打ち上げを行うにまで至ったのだ



もちろん、打ち上げといっても飲み会ではない


生徒会長である美咲が居るため、当然お酒禁止の平和な会となったが、この人数を貸し切りで使える場所がなかなか見つからないために場所だけは飲み屋となった.....



「よし、皆取り敢えず乾杯のドリンク注文しよぉぜ!!この人数だから最初はまとめてピッチャーで。当然アルコールは駄目だからな!!」

幹事が声を上げて仕切っていく

「美咲、私たちのテーブルはオレンジジュースで良いよね?」
「あぁ、良いぞ」
楽しそうにメニューを開くさくらにつられて、美咲も顔が少しだけ緩む


今朝見た夢のせいで心は少し沈んでいたが
目の前に並ぶ料理と乾杯用のドリンク

そして楽しそうに笑うクラスメイトたちにそんな心も軽くなる



「それでは皆さん、先日の文化祭の成功を祝って....」


「「「かんぱ〜い!!」」」


美咲はグラスを高く持ち上げたあとに中身のオレンジジュースを飲み干す



「....あれ?これお酒入ってねぇか?」
同じテーブルに座る男子が2、3口ジュースを飲んでそう言った

「あ、本当だ....。店員さん間違えてる」

「...っ!!あ、あの会長これは不可抗力で..わざとじゃないですから!!」
美咲の存在に気付いた男子生徒が慌てて弁明する

「.....会長?」

クラスの誰もが何も言わない美咲の顔色を伺った

予期せぬアクシデントとはいえ鬼の生徒会長の目の前での飲酒行為.....


鬼神が出現するのではないかと男子は冷や汗をかいて美咲の反応を伺ったのだ



「会...」
「このジュース何か変な味するら」


「「え..?」」

「美味しくないらっ!!...これやらっ!!」

皆が唖然とするなか、視線の先に居る美咲は顔を赤らめてふてくされていた

「み、美咲....?」
さくらが何かと思い声をかける


しかし今の会長からは返事は返ってこない


「もしかして.....」


((((((酔ってる!!!!?))))))


「そんなこれしか飲んでないのに!?」
「会長めちゃくちゃ酒弱いじゃん!!」
「てゅかどぉすんだょ!!会長普通に酔ってるぞ!?」
「....よ、様子をみよう!!」
「う〜、うるしゃい!!酔ってないら!」
「か、会長......」

いつもなら美咲に怒鳴られて震い上がる面々も今日は怖くない....


というよりか



(((((か、可愛い....v)))))

普段とはあまりにも違う美咲の姿に一同胸がキュンとなった

そんな様子を知らず美咲は空っぽになったグラスを見つめてまだふてくされている


「皆五月蝿いのら〜、美味しいのが飲みたいら......」

そう言った瞬間美咲の言葉が途切れる

部屋の入口を見たまま視線が止まった


「今日は平和な打ち上げじゃなかったの?」
「ぇ、うう碓氷さん!?」

美咲の視線の先には何故か他クラスの碓氷拓海が居る


「ど、どうしてここに..」
碓氷は周りの動揺など全く気にせず美咲に近付いた


「そりゃ、会長が打ち上げとはいえこんな時間に飲み屋に来たら心配でしょ?
....全く、お酒なんか飲んじゃって...」

適当に投げ掛けられた質問に答え、美咲のすぐ目の前にしゃがみ、美咲の頬に掛かっていた髪を優しく払う


美咲の服が乱れてないことを確認して少しホッとする...

「お酒なんか飲んでないらっ。ジュースら!」


でもこれ美味しくない....
と続けた美咲の目が潤む

「...鮎沢?」
何事かと思って碓氷が少し驚いたように目を見張った


「...甘くて美味しいのが良いら..」
潤んだ目でそう言われてしまったら碓氷としても少しばかり困惑する

「そんな可愛い顔他の奴がいるとこでは見せないでよ」
ボソッと呟いて周りに居る面々から水を受け取る


「ホラ鮎沢、お水飲んで?」


一口だけ飲んで甘くない、と碓氷に戻す


(((会長が我が侭言ってごねてる...)))



「仕方ないなぁ〜」

そう呟いて碓氷は店員に何種類かジュースを注文した


(((しかもあの碓氷さんが動いてる...!!)))

届いたジュースを上手にブレンドし、出来上がったものを美咲に手渡した



「...........」
ゴクゴクと飲み干す


「美味しいらv」
飲み終わって満足そうに満面の笑顔を碓氷に向けた


((((か....会長...可愛すぎる!!////))))

「...それは良かった」

その笑顔に碓氷も言葉が一瞬出なかったが、無意識のうちに自分の顔も緩む



「あ、俺ちょっとタオル冷やしてくるね?」

碓氷は顔が赤い美咲の熱を冷やそうと立ち上がろうとした

「やらっ!!行っちゃ駄目らっ!!」

その瞬間、碓氷が離れないように美咲は腕をギュッと抱き締める

(((かかか会長が...!!!)))


「な、鮎沢...どうしたの?//」


クラスメイト一同も、流石の碓氷も突然の行動に驚きを隠せない



「......置いて行っちゃやら...。やら、やら!!」
美咲は腕にしがみついたまま頭をブンブンと振る


どうやら碓氷の言葉は聞こていないようだ


「鮎沢....?」
美咲の瞳からポロポロと涙が溢れる


「やら!!行っちゃやらっ!!!」

ギュッと抱き締める腕に力が入る


「...俺は何処にも行かないよ?鮎沢の隣以外に行きたいところなんてないし...」
小さな子供をあやすかのように優しく頭を撫でて微笑みかけた


「....お父さん...帰ってこなかった」

碓氷にしか聞こえないほどの小さな声で美咲がポツリと呟く


「夢....居なくなった夢を見たんらっ。待ってたのに...ずっと、寂しかったのに...」


ギュッと優しく美咲を包み込んで抱き締める


「...碓氷も居なくなるのか?そんなのやら...」

「鮎沢....、俺は鮎沢が例え嫌だって言っても一生傍を離れる気はないよ?」

(((碓氷さん...俺らの前でプロポーズすか?)))


「絶対離れないし、放さない....」


「邪魔者は全て消し去るし」

可愛い美咲の姿を見せるのが嫌でたまらず、周りに居るクラスメイト達を冷たく不機嫌に睨み付ける



(((く、黒い...。魔王降臨...!!?)))


「あ〜俺らちょっと外の空気を...」
「何か涼みに行きたくなったよね..?(ドキドキしすぎて)」


慌てて睨まれた面々が部屋から出ていく



誰も居なくなった所でまた美咲を見つめ

甘く微笑んだ


「だから安心して俺の隣に居て?」
抱き締める力を少しこめて愛しそうに美咲にすがりつく

「碓氷........」

美咲も碓氷の腕のなかで胸に寄りかかり身を預けた



「...全く、まさか美咲ちゃんにこんな甘えられるとは思わなかったよ」


無抵抗に腕の中で安心したように目を瞑る美咲の姿に、幸せを感じながらも心が満たされ過ぎていっぱいになる



(可愛すぎて心臓が止まりそうだよ..)

そんな自分の気持ちは、いつの間にか眠ってしまっている美咲には恐らくこれっぽっちも伝わっていないだろう...




「こんなに男を振り回すなんて、魔性の女だね鮎沢」

ふんわりと笑いながら夢の中の美咲に話しかける




そして夢の中の美咲がもう決して寂しい思いをいないよう、いつまでも抱き締めているのであった.....







終わり☆

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