幸村Xブン太

□ずるいあなた
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病院の独特な匂いが鼻にくるけど
もう慣れた

幸村君の病室に行けない時は大会ぐらい
それ以外の日は毎日のように通っている

手術に近くなるほど衰えていく幸村君の体、
体の中で蝕んでいる病原体のせいですっごく痛いはうなのに
俺の前では苦痛の顔を出したことなんて無い

他の奴の時は知らない
誰にも聞いたことはない
…というより聞かない

俺の前でしないということは見せたくも言いたくもないということだから
幸村君が望むなら聞かない


辛いのに無理しなくていいのに
いつも俺に伝える言葉がある


「好きだよ…ブン太」


細く、白い手が頬に触れる
そして、何も言わずに俺を抱きしめる

その手には力は入っていない
けど、何も言えない


幸村君はずるい


「好き…」


そうやって…


「愛してる…」


俺を惑わす…


毎日のように繰り替えす言葉
いつも言われてるけど、いつも悲しい

幸村君が病気でも倒れても俺は幸村君をずっと好きでいる

でも、俺の口から好きって言わせてもらえない
なんでって聞いたら
「今の俺に言うより、病気が治った時の俺に言ってほしいから」
…って言われた

悔しかった…

病気は手術を受ければ絶対に治るよって、幸村君に言われていたけど…

俺は知っていた
本当は手も動かないほどに悪化してる事も
話すことも今では辛いことも

手術を受けても治る確率が10%以下だと言う事も…

何も言わないけど伝えたかった
今手術を受けている幸村君に

もう帰って来ないかもしれない、
部室に笑いも戻ってこないかも知れない…

病気の幸村君にも、治った幸村君もずっと愛しているって…伝えたかった…

そして俺はまた見えない背中を見追うだけで、何もできないまま

「好き…」

閉ざされたドアに語るだけだった




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