NOVEL
□第三章 the world
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「ん…」
一人の少年が世界のある場所で目を覚ました。
彼は、雛空 暁斗。
異世界人―そう呼ぶべきだろう。
彼は、自身の知らないうちに、沢山の事件に巻き込まれている。
しかも、彼自身では理解不能な上、解決不可能な問題に。
アキト「ここは…?」
暁斗は辺りを見回した。
邪魔な障害物が何一つとして無いような、一面の草原。
その丘の一番上だろうか、一本立っている木の木陰にいた。
春なのか、暖かい陽気で、沢山の花が咲いている。
「あら、目が覚めましたか?」
後ろから、柔らかな可愛らしい少女の声がした。
振り返ると、明るい栗色の少しウェーブのかかった長い髪をした少女がいた。
アキト「えっと、君は…」
フローラ「ごめんなさい、急に声をかけてしまって…。私はフローラ。あなたがこの丘で倒れているのを見付けて、この木陰に移動させたんです」
フローラと名乗るその少女は、申し訳なさそうに事情を話す。
アキト「いや、ありがとう。オレは雛空 暁斗」
暁斗はお礼を言いながら、近付いて来るフローラと目線を合わせようと、立ち上がった。
フローラ「あ、立ち上がって大丈夫ですかっ?」
アキト「あぁ、大丈夫。ありがとう」
フローラ「あなたは…」
フローラは声をかけようと、躊躇った。
暁斗の視線の先の景色を思うと、何も言えなかった。
その先にあった景色は、見た事もないような景色だった。
何と言えば良いのか解らない。
表現が難しくて…
言うならば、
夢みたいで、あり得なくて、悲惨で、恐ろしくて…
空の綺麗な青を穢すように、真赤な血のような灼熱が揺らめく。
その炎が空と混ざり、色を濁して行く。
火が上がってから数時間経っていたようで、少し消えかかっていた。
それでもまだ、遠くからでもはっきりと炎は確認出来た。
アキト「っ――」
今の状況を何も理解出来ていない彼には、辛く、悲惨にしか見えなかっただろう。
そんな彼に、街の惨状を伝えようとフローラがゆっくりと、話し出した。
フローラ「酷いでしょう?数時間前の事です。あの街が消えたのは」
アキトは街を見つめながら、フローラの話に耳を傾けた。
フローラ「闇ノ道化師ですよ。地図の端にあるような、帝国が直ぐに手を回せないような、あの街みたいな小さな街や村を消して行く…」
フローラの声が尻すぼみに小さくなって行く。
フローラ「この間は、帝国直属の軍隊を襲ったらしいですし…
同じ人なのに…」
アキト「もう話さなくて良いよ」
アキトは涙を流しながら話すフローラを止めた。
彼女の想いが痛いほどわかった。
フローラ「ごめんなさい…
良かったら、私達の隠れ家まで来ませんか?ここにいたら、見つかってしまうかもしれないもの」
アキト「え、良いの?」
フローラ「もちろん。アキトの事も聞かせてちょうだい?」
アキト「そうだな。俺、何も話してないな」
アキトはフローラの行為に甘える事にした。
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