エデンパラレル

□一方通行×一方通行=交叉
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 捜査から帰った紫(ゆかり)は、隊士室で待機していた淑生(すなお)にお茶を入れてもらった。
 今日は少し寒かったので、あたたかいお茶が心地いい。
「ゆかりん、捜査の方はどうだった?」
「ああ〜、まだ時間かかりそうです。今、土師(はじ)さんが資料をもらいに行ってくれてるんですけど、あの手の資料ってたくさんあるから、探すの一苦労かも」
「だーい丈夫よ。資料官ならパパっと見つけてくれるわ。資料の管理があいつらの役目だもの」
 同じく待機だった真愛良(まいら)にもお茶を振る舞い、淑生は紫に抱きついてきた。紫は少し困ったように笑いながら尋ねた。
「あ、あのー、天刻(てんこく)さんたちは?」
「天さんと春希(はるき)は任務よ。ほむらんも応援に出てて……あ、そういえばさっき、総隊長が来たわ」
「え!」
 どきん、と紫の胸が高鳴る。陽向(ひむか)は忙しいくせに、しょっちゅう特殊課に顔を出す。主に、紫のいる第三班に。
 何か意味があるわけではなく、ただ楽しいからという理由なのは分かっている。
 それでも、期待してしまう。もしかして自分に会いに来てくれたのではないかと。
「昨日置き忘れていった資料を取りにね」
 あっさり期待を裏切られ、紫はがっくりする。
(そんなわけないのになぁ…)
 あの人は誰に対しても同じ態度を崩さない。笑顔で近づいて、からかって遊んで、相手の攻撃を簡単にいなす。
 つかみどころのない雲のような人。いつまでたっても、あの人の心は読めない。 
 明らかに落ち込む紫に、淑生はくすりと笑って頭を撫でた。
「ホントについさっきだから、今から追いかければ会えるかもよ?」
「ぅえ!? いや、別にわざわざ追いかけることないですよ! そんな用事も理由もないし…っ」
 慌てふためく紫がかわいい。淑生は紫の体を放して、トン、と背中を押した。
「用事はなくても、理由ならあるでしょ?」
 ウインクする淑生。なんだか見透かされているようで、紫はなんとも言えない顔をした。追いかける理由――会いたい。
 一瞬よぎる、陽向の顔。けれど。紫はその顔を振り払った。
 会いたいけれど、あの人だって忙しい。大した用事もないのに会いに行けるわけが――
 そう思った時、紫の体がふわりと浮いた。
「へ?」
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