頂き物

□【愛の喜び(黒ファイ)】
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「…は?」
自分でも己の素っ頓狂な声に驚いたが、今はそれどころではない。
目の前のこいつは今一体なんと言ったのだろう?
「だから、なんなのこれ」
これ、と言われ相手が指差した俺の手の中にあるものを見やる。
其処には美術品に疎い俺でも分かるような美しい細工の簪があった。

沢山の次元を廻る過酷な旅が終わり、金糸の魔術師、ファイ・D・フローライトは俺の生まれ育った国日本国に住まうこととなりもう随分経つ。
一応恋仲という間柄の俺達を見越して、知世姫が一度も贈り物と言うものをした事が無い俺に何か送った方がいいのではないかと助言した。
今更そんな事と思いはしたが、やはり形というものもあったほうがいいのかと思い大枚叩いて購入したというのにこの有様だ。
「何が気に食わない?お前の好きそうな細工だろう」
「そうだね…でもこれ買うくらいだったら贅沢なもの食べに行った方がマシだよ。大体オレ女の子じゃないんだから簪なんかもらってもね」
ファイのその言葉にカチンと来た俺は手の中の簪を握り締めその場を後にした。


わざわざ俺が選んで、アイツが本当に好きそうな細工だったから少し無理して買ったと言うのに…!
俺は怒りのやり場が見つからないまま白鷺城の庭へと赴いていた。
いっそ美しい錦鯉たちが泳ぐ水面にこの簪を投げ入れてやろうか。
そんな事を思っていた矢先―。


「あら、黒鋼?こんなところでどうしたのですか?」
己の姿を見止め、主でありこんなことになった原因の知世姫が此方へと寄って来る。
「ファイさんへの贈り物は上手くいきました?」
事情も知らずに何時もの笑みを浮かべて聞いてくる。
今は其れにさえ苛つきが募る。
「…いらねぇってつっかえされた」
その言葉に知世姫の目が少し見開くのが分かった。
「こんなもん貰うくらいなら贅沢なもの食いに行ったがマシだとさ…」
そう言いつつ手の中の物を見やると知世姫も覗き込んできた。
そこで更に眼を見開くのが見て取れた。
「貴方…これを贈ったのですか?」
その言葉に今度は俺が目を見開いた。
「あぁ?」
「じゃあ受け取ってはくれないのも頷けますわね」
ふぅと溜息をつき、訳知り顔だ。
「どういう意味だ?」
今度は少しじとりと此方を見てくる。
一体なんだというのだ。
「以前、ファイさんとお話したことがありまして、全く愛情を形にしない無愛想な忍者をどう思いますかと…」
言葉の最後のほうが気にはなったが黙って続きを話すよう促した。
「そしたらファイさん、柔らかく微笑んでこう言いましたわ。『物なんて別にくれなくてもいいんですよ、オレは彼に愛されてると感じれれば…それでいいんです。あ、でももしくれるとしたら部屋に飾る花とかがいいなぁ』と」
その言葉を聞いてあいつが言ってる光景が目に映るような気がした。
俺は何を発していいか分からなくて黙りこくっていたが、何を考えているのか相手には伝わってしまったようで少し俺への中てつけのように喋るのを止めない。
「きっとファイさんは高い贈り物より心が篭ったものが欲しかったんですわ。贅沢なものも、食べに行くとしたら貴方と一緒でしょう?そんな無理なものを買うよりもっと大切なものが欲しかったんじゃないでしょうか」
これは耳が痛いのだろうか…それとも心なのか。
「いいですか黒鋼。私は『贈り物』をしなさいとは言いましたが、『貢物』をしなさいとは言ってません。…言いたい事はわかりますね?」
まるで諭すように此方を見つめてくる瞳は俺にやることを促してるようだ。
「…ッわかってる!」
上手くまとめられてるような気もしなくも無いが、俺はそれだけ口にすると己の屋敷へと走り出した。


*****
「ファイ…ッ!」
ガタンと大きな音を立て扉を開けるとその向こうではゆったりと茶を啜ってるあいつ。
「なぁに?大きな音立てて」
しらっと聞いてくるその態度に少しまた怒りが沸きそうだったが、今此処で我慢しなければ元の木阿弥だ。
「その…悪かったな。お前の気持ちも考えないで…だけど、だけ、ど…」
其処から先の言葉が出てこない。
「だけど?」
じっと青い瞳が此方を捉える。
なんとなく逃げられないと感じた。
「ッ…お前に、喜んで貰おうと思った気持ちは…嘘じゃねぇからな…!!」
その言葉を発するのと同時に近場に咲いてた花を放ってやった。
あぁ顔に血が上ってくるのがわかる。
俺らしくも無い。
相手の顔を見るのも恥ずかしい。
だが反応が気になるのも本当の事で、チラリと相手を盗み見た。

「…え?」

目の前にはいつも白い肌で金糸を揺らしてへらへら笑ってる奴じゃなくて、真っ赤な肌で金糸さえも硬直し、固まってる奴がいた。
「…なに、それ恥ずかしいなぁ…もう」
そう言って俺が放った花を手に取り、へにゃりと赤い顔のまま笑った。
「アザレアの花言葉は《愛の喜び》。これ図ってるの?」
幸せそうな顔のまま此方を見やり、クスリと笑った。
やっぱりこいつの笑顔が好きなんだと自覚させられた気がした。
「別に。そんなんじゃねぇよ」
己の口元が緩んでるのが分かったが隠す気は毛頭無い。

―愛の喜びか…きっとこれがそうなんだろう―



**おまけ**


「これはもういらねぇから売りにでも出すか」
そう言って自分が取り出したのは先程の簪。
「え、なんで?」
「え?なんでっていらねえっつったじゃねぇか」
きょとんと此方を見てくる恋人に此方もきょとんとなる。
「いらないなんて一言も言ってないよ?ただ勿体無いなぁって思っただけで」
平然と言ってのける相手にもはや怒る気力すら沸かない。
はぁと溜息をついていると相手が手をさし伸ばしてきた。
「だから黒たんの『想い』ちょうだい?」
僅かに首を傾げて見上げてくる瞳を見て、俺はこれからもこの恋人に振り回されるのだろうと何となく感じるのだった。





*******


青葉様、相互記念小説ありがとうございました!!
「日本国永住設定か特別編後で、ツンデレファイさんに、ふりまわされる黒様」
リクエストで素敵な小説が…!!!
ツンデレファイさん可愛いすぎです。
ファイさん可愛い可愛いーーー!!
首をかしげてお願いのポーズにノックアウト。
思わずにやにやが←
黒様はもっと振り回されてればいいよ、
とか思いました←

またお話させてくださいませ。

素敵なお話ありがとうございました。
 

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