捧げもの

□『おっきいワンコ』と、『おっきいニャンコ』の服選び
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「だから、黒たんにはこっちだって!」

突然聞こえてきた声に、小狼とモコナは振り返る。

離れた所の衣服売場で、黒鋼とファイがもめてるようだった。

一旦旅が終わって、さくらと別れてから訪れたこの国は、
どちらかといえばかっちりとしたジェイド国の服に近い。

人目で旅人だと知られないように、
買いにきた一行ではあったのだが。

「喧嘩かなぁ?」

小狼の肩に乗ったモコナが心配そうに二人を見ている。

近くの売り物の服を取り出しては、ファイが黒鋼に試着をすすめている様子だ。

二言三言言葉をかわしてはいるようだが、
生憎小狼たちの所までは聞こえない。

商品のかごには、色んなデザインの服、色が置かれていた。

そのまま見ていれば、ある一着を黒鋼に押しつけ、試着室へとファイが押し込んでいた。

何分かして着てでてきた黒鋼に今度は別のを持たせ、再び試着室へと追いやる。

そんなやりとりがしばらく続いた後。

ある一着にようやく決めたようだった。

地は黒に赤、オレンジの刺繍で炎が描かれている。

しばらくじっとファイは見たあと。

不機嫌そうな黒鋼に近寄る。

ここからでも、黒鋼が文句を言う声が聞こえてきた。

まわりの店員は近づいてこない。

「ファイ、どうするんだろう?」

モコナが二人を見守る。

答えずに小狼も二人の様子を見ていた。

あ、と声をあげるモコナ。

二人の姿が試着室の中へと消える。

ここからの距離では、マネキンなどに邪
魔され小狼たちにはわからなかった。

どうなったのか、と
小狼とモコナはちらちら見ていたが…。

どうやら、もめごとは解決したらしい。

数分たち、大人組が姿を現わし、
小狼たちへと歩いてくる。

「ごめんね。
黒たんの服、やっと決まったんだけど、
オレはまだなんだ。
小狼君は、服決まった?」

ファイが近寄り、小狼にほほえむ。

「まだだが…。
さっき何かもめてたようだが、何かあったのか?」

小狼が聞くと、そうだよ、とモコナも声をあげた。

「黒鋼が怒ってて、ファイが宥めてる感じだったもん」

「黒たんはいつもだけどねぇ」

「なんだと、てめぇ」

「黒鋼父さん、おこりんぼなのー!」

「待て!白まんじゅう!」

きゃー!きゃー!どたばた。

あっという間にモコナと黒鋼のおいかけっこが始まった。

くすくす笑ってファイが二人を見守る。

そんなファイと、黒鋼を心配そうに見ていた小狼だったが。とあることに気付いた。

顎と首のところに赤く色付いたそれ。

「虫にさされたのか?赤くなってるが。
さされたというよりは、噛まれたような跡になっている」

思ったことをそのまま、小狼が告げると。

「…え?」

驚きと戸惑いの色が、ファイに現われたかと思う間もなく、顔が赤く染まる。

うろうろと、ファイの視線が泳いだ。

「えっと、あのっ、これはねっ」

「はい。薬塗ります?」

「たちの悪いのに、噛まれたみたいー」

あははと笑みでファイが誤魔化すと、
「そうなんですか」と小狼は頷いた。

「ちょっと、黒たん!!」

向き直っておいかけっこをしている二人にファイが走っていく。

一旦、中断されたため、モコナがぴょんと跳んで小狼のところにやってきた。

離れた所で、ファイと黒鋼がなにやら口喧嘩をしているようだ。

パシーンと小気味がいい音が響く。

「…ねぇ、小狼。
ファイの首の前の所に、さされた跡みたいなのあったんだけど。あれって…」

「あれだろう」

しばらく小狼とモコナは、大人組を見ていた。口喧嘩はどうやら今度は黒鋼がファイを宥める側に回ったらしい。

黒鋼の頬の手形跡が妙に痛々しかった。

「全く、あの人たちは…」

ぼそりと小狼が呟く。

性格が正反対な二人は、何をするのでも一進一退。

見ている側が、歯がゆくなる程だ。

ここまでくるのには、旅の間、色々あったのだろう。

そんな二人に、
周りが振り回されることを自覚してほしい、
…なんて思うのは贅沢な望みなのかもしれない。


「………小狼。お父さんとお母さんの話長そうだから、もうちょっと服見てようか」

モコナの提案に「そうだな」と小狼が同意する。



一行の服が決まったのは、
それから数時間後のことだった。





end.




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