小説短編(パラレル)
□美しい獣 2
2ページ/2ページ
ふぁっと欠伸をする。
声は出ない。
遠い昔に、暴行をうけ舌はなくした。
人はファイを、異形の獣だという。
狼のように近い毛並みではあるが、狼のような形態ではない。
垂れた耳がその証拠だ。
尻尾は、ふさふさしており
長い。
この村の周りには、小さい獣しかいなかった。
暴行をうけ、泣きながら森へと辿り着いた。
ファイの体躯のせいか、
見たこともない姿に小動物は怖がっていたが、いまは森の主とファイはなっている。
挨拶をしてくるようになった。
これはこれで、いい。
そう思っていたのだが。
(なんで会っちゃうかなぁ…)
出会いは突然だった。
嫌な記憶もあるが、楽しい記憶もある。
幼い頃、鳴いていたファイを拾ったのは、黒鋼だった。
優しい手。
言葉。
ひとりぼっちは寂しい、としょんぼりしていたら抱きしめて眠ってくれた。
(入ってこないで)
思い出すだけで、切なくなる。
ふるふると頭をふって、さてお昼ご飯の果実でも探しにいこうかと歩き出した矢先。
懐かしい姿を見かけて、
ファイは歩みを止めてしまった。
.