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□今日の仕事は終了。のはず、が
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〜今日の仕事は終了。の、はずが。〜



「これでもう大丈夫なんじゃないかな」
 
ドライバーを回しネジを留めて、傍らにいるメイドに動くかどうか試すよう促す。すると暫くした後にヴヴヴ…と低く音を鳴らし音機関を利用した大型の洗濯機は振動し始めた。…―良し、どうやら無事に直ってくれたみたいだ。

「ありがとう、これでようやく洗濯物が出来るわ〜。さすがガイね」

「なんのなんの。これぐらいお安い御用さ」

俺はもともと音機関をいじくり回すのが大好きだ。よく徹夜で音機関を組み立てたりしてる。だからこういった音機関に携わる仕事がもっと増えるように屋敷中にある音機関が壊れてくれないかな、なんて不謹慎なことも思いながら俺は修復に使った工具を持ち前の工具箱に戻してゆく。

「あ、そうだわ。ガイ、今日はもう上がっていいってメイド長からお許しが出てるわよ」

「え?」

目を瞬かせる俺にメイドが「こないだも助けてくれたお礼だそうよ?」と説明してくれた。
―ああ、そういえば前にも同じようなことがあって今みたいに修理してみせたことがあったっけ。

「じゃあ…」

ここは素直にお言葉に甘えておこう。長いこと座らせていた腰を持ち上げれば、くれぐれも途中でルーク様に見つからないようにねと苦笑を洩らされた。
確かにあのお坊ちゃんに見つかると何かしら要望を突きつけられるからなぁ。
そう祈るよ。口には出さずにこちらも苦笑し返して、その場から身をひいた。









「ガイ!後でおれの部屋に来い!」

メイドの優しい忠告虚しく、俺はあっさり廊下で鉢合わせたルークに捕まってしまった。
いやこの場合、ルークが俺を捜していて、案の定見つかってしまったという生い立ちの方がきっと合ってる。
にんまりと怪しく笑うところを見ると、暇してるルークはまた何か新しい遊びでも思いついたらしい。

「絶対だからな!来なかったら…っ、」

俺がルークから下された命令を守らなかったことはほとんど無いに等しいと思うのに、すぐに返答を返さなかっただけで目くじらをたてるルークの頭を「了解しました」という代弁にわしゃわしゃと掻きまわす。

「はいはい、じゃあちゃんと窓のカギ開けとけよ?」

次の日になんで来なかったんだよとか目の前の少年は言われたら困るから一応釘をさしておく。全くその心配はないと思いつつ。

「いつも開いてるから大丈夫だっつの」

ほら、これだもんなぁ。
いつでもおまえの窓は容易く開くもんな。イコール鍵を掛けてないってことで。

それは大丈夫と素直に言えるものなのか。
もう少し王族としての立場を弁えて頂けませんかね?
ある日王族に恨みを持つ者が夜中にこそりと忍び込んでその細い首を絞めて息の根を止められたりでもしたらどうするんだ。城の警備は数十人の白光騎士団が警備しているとは言え万全ではあるはずがないってーのに。

「あのな…」

開いてる、じゃなくて、おまえが閉めないんじゃないか。そう口を挟もうとしたら、遠くから「ルークさまー!」というメイドの声が聞こえてきた。

「げっ、やべ!」

何か嫌なことがあるのか、ルークは脱兎の勢いでどこかへ走り去っていってしまった。一言「絶対だからなー!!」距離が離れていくに連れて小さくなっていった服従命令の言葉を残して。

やれやれ。せっかく早めの休息をもらったと言うのに、これじゃあ意味が無いな。
周りから見ると俺はどうも“好き勝手に振り回されっぱなしのなけなしの可哀相な使用人”に見えているらしい。
まあ、そりゃそうか。でも俺は好きで振り回されているのであって、ルークと居て好き勝手にあれしろこうしろ言われるのは全然苦じゃない。むしろ光栄だと思う。そして出来るだけその要求にも叶えてあげたいとも思う。


1人、心の中でごちて 本業のあるべきところへと向かうべく、歩を進めた。



君といることが最高の安息。
仕事の終了期間は、主が主で無くなるまで。



Fin.





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