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□特別な君だから、
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窓から流れ込む温かな日差しを背に受け、ルークは威嚇した猫のような唸り声をあげて机に向かい勉強に取り組んでいた。
その後ろには 腕組をして静かに見守るガイの姿。
静謐な部屋にカチコチと、リズムを崩さずに一定で刻まれる時計の無機質な機械音が響いていた。

……しかし。


「だーっ! もうワケわかんねぇ!こんなん終わりだ終わりっ」

ばんっ、と机を叩いたルークによって、僅かだが続いていた静寂は断ち切られた。

「『終わり』っておまえな…。まだ机に向かってから10分もたっていないじゃないか」

想定していた通りのルークの行動にガイは苦笑の表情を浮かべた。椅子から立ち上がるルークに 「もう少し頑張れよ」という意味でルークの肩に手をかけて制止する。
―当然その手は「うぜぇ!」と罵られて払いのけられてしまうのだが。


「仕方ねぇだろーわかんねぇもんはわかんねぇんだから」

始まって早数分足らずでさじを投げたルークにガイは眉尻を下げる。

「…ルークの悪いとこだぞそれ。分からないとこはちゃんと俺に訊けって。そんなんじゃ俺がここにいる意味がないだろ?」

まるで聞き分けのない子供に諭す様に話し始めたガイに、ルークはうんざりと頭部の後ろに両腕を回す。そしてふと、

「なぁガイっ、こんなくっだらねぇ勉強なんか放っといてさ、稽古しようぜ!」

さっきの様子から一変し、きらきらと目を輝かせて違う目論見を提案した。…だが、

「だめ」

ぴしゃりと、数少ない楽しみをたった2文字の言葉で一蹴されたことにより、ルークの機嫌はより一層深いものになる。


「……ガイのケチ」

ルークはむぅ、と頬を膨らませ憮然たる面持ちでガイを睨む。

「全然ケチくない。…第一、きっちり勉強して下さればそのような機会をたくさん設けても陛下から文句を言われないでしょうに…違いますか、ご主人様?」

「――っ、ガイ! その口調は止めろって言っただろ!!」

滔々と敬語でまくし立て嗜めるガイに、ルークは眉を吊り上げ険しい形相で叱声を浴びせた。

「ではそれは何故ですか? ルーク様」

そんなルークに対するガイは咎められた言葉付きを変えようとはせず、にこにこと意味深な笑みを作って訊ねた。
挑発とも取れるガイの態度にルークの苛立ちは加速する。

謙譲語は相手を敬い慕い、敬愛という意味を持つ。
けれども、ルークはこの口ぶりを心底忌み嫌う。
特に―、ガイに口にされると激しく激昂する。
そうしてこれまでその度に「俺はおまえの使用人という立場だから」、とガイは言い聞かせた。しかしいくら言ってもルークは全く聞く耳をもたなかったが。

「がいだけ…が」

ぽそりと口を動かす。

一番ルークの身近にいるガイ。
年齢が近いことも、共に過ごす時間が長いことも。
敬語を聞くたび息が詰まる思いをする。そんなの、上辺だけのただの薄っぺらい他人行儀だと思えてしょうがなかったから。
それを、一番心を許しているガイにまで使われるのは嫌だった。だから。忌み言葉としてルークは扱うことにしたのだ。

「ガイだけ…屋敷中の誰よりも俺はガイが一番好きだから、だからガイだけにはちゃんと名前を呼んで欲しい、っつーか…その……っ」

ずっと胸に抱えていた思いを声にして打ち明けていく内に、だんだんとルークの顔色が真っ赤に染まっていく。体温も上がり心音もばくばく音をたててきたところで、そこで漸く自分がとんでもなく恥ずかしいことを口走ってしまったことを手遅れのタイミングで気付くと、言葉を詰まらせていき―

「〜〜や、やっぱなんでもねぇーっ」

―脱兎の勢いでこの場から走り去っていってしまった。

誰も居なくなった部屋に取り残されたガイがベッドを背もたれにしてずるずると滑り落ちるように床に腰を下ろした。嵐が過ぎ去ったあとの静けさと脱力感にも似た感情が漂う空間の中、一人、ルークのさっきの言葉の部分的に単語が抜き出されて頭の中でぐるぐる反響する。

「……なんて殺し文句だよ…ルーク…」

わざとではなく本心から出た言葉だと汲み取ったガイの顔はほんのりと赤らみを帯びていた。
そしてふ、と目を閉じ笑うと、稽古用の木剣を片手に ルークの後を追った。



Fin.



†あとがき†

最近思ったのですが))どうもうちのガイルクはルク→ガイっぽい気がします。

2009.4.23



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