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□もしかして甘えてる?
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「ガーイ。ガイってば!」

ルークが隣にいるガイに何度も呼びかける。しかし返ってくるのは黙然。密接したこの距離で聞こえていないはずはないのだが。

「―っおい!」

“短気”だと、パーティー内の全員が口を揃えてルークの性格を指すが、誰でもこの状況に陥れば一言浴びせたくもなるだろう。

我慢の臨海線に達するぎりぎりのところで、ルークはガイに軽く苛立ちを孕んだ声で浴びせると、漸く耳に届いたらしいが、「んー」と生返事を返しただけで、体勢を変えようとはしなかった。

…起きているのかいないのかさえ不明だ。

ガイの腕の中で、何でこうなったんだっけ、と考える。

まるで自分を逃げないように拘束しているとも形容できる抱擁を受けながら、ルークはこの体勢に陥る少し前の、記憶の回廊を辿った。







「―う、寝過ぎた…」

ふわりふわりとたゆたうカーテンから時折零れ出る眩い陽光が、閉じた瞼の裏にまで照らし出す。その日差しが強いことから、もう太陽は当に高い所にあることを夢現つな頭でぼんやり推測すると、渋々ルークは緩慢な動作で瞼を持ち上げ、むくりとベッドから上半身だけを起こした。

昨夜は野宿ではなく町宿だった。
備え付けられた久々に感じたふかふかなベッドの感触に溺れ、どうやらその心地良さの余りいつの間にかうとうととまどろみ眠ってしまったらしい。疲労感もたまっていた。故に、寝ていた時間がこんなにも長引いてしまったのだと考える。

それは相部屋となったもう一人の住人のガイも同じだったようで、ルークが起きたとき、まだ彼は隣に並んだもう片方のベッドで穏やかな呼吸を繰り返していた。

ん〜、と大きく伸びを一つし、息を吐き出す。
まだ寝ていたいという怠慢な気持ちを少し体を動かすことで、無理やり奮い立たした。

「ガイ、もういい加減に起きないと…ジェイド達が怒る…」

隣のガイのベッドにのそのそと足を引きずりながら移り、目覚めたばかりのせいなのか舌足らずな物言いで彼の体を揺さぶり起こす。

すると、ガイの眉間に皺が一度寄せられた後、ごろん と寝返りを打つと、ルークに背中を向けていたガイがこちらに向きを変えたと同時に、ガイの腕が寝惚けたようにぎゅうっ、とルークを抱きしめた。

「…っ!!?」

ぱちぱちとルークの目が瞬き面食らったように瞠目して、覚醒してなかった意識が一気に覚める。

「がっ、ガイ!? だ、だめだって、離せよ!でなきゃ怒られ―!」

じたばた暴れ、ガイの胸板を力いっぱい押し返したりして何とか逃れようと足掻いてはみたものの、その非難の行為は空しくも叶うことはなく―



―そうして、今に至る。


…まぁいっか。
思わずそんな考えが頭をもたげ、うつらうつらと意識が遠のいてゆく。耐え切れなくなった瞼の重みに逆らうことなく瞳を閉じると。

コンコン、と軽快な扉を叩く音が室内に木霊した。きっと扉の向こうに立っているのはいつまでも起きて来ない自分たちにしびれを切らしたジェイドだ。


「ルーク!ガイ!いい加減起きなさい。何時まで寝ているつもりですか」

…見事予感的中。

だが未だにルークの体にはガイの手が絡まりついていて。


「―ぅ、わっ!?」


ルークの視界が90度くるりと回転して、ガイがルークの上に覆い被さってきた。


「めんどくさいな…」


より強くルークの腕を引き寄せ、ガイがそうぼやき、甘えるように自身の頬をルークの肩に摺り寄せる。

「が、がい…?」

初めて見る。こんなガイの姿。そんなに疲れているのだろうか。

「どうかしましたか?」

ルークのさっきの叫び声を不審に思ったのだろう。ジェイドが扉越しに訝しげに聞いてきた。


(今日のガイ、なんか変…)


珍しく、こうもあからさまに甘えてくるガイに戸惑いながらも、ルークの内心ではほんの少し嬉しいと思っていて。
…だからだろうか。

「ルーク?」

「あ、えーっと…ガイが、気分悪いからもう少し寝かせてくれ、だってさ。だから…」

自分の口からはこんな嘘の言葉が紡がれた。

「………」

見えていないはずなのに、ジェイドがまるで自分の場所を射抜いているかのような視線を感じながら、冷たい沈黙が降りる。

「じ、ジェイド…?」

おそるおそる訊く。きっとジェイドが気付いているのだろう。その咄嗟にルークの口から出た虚言に。
やっぱりだめか、とルークの首がうなだれたのと、はぁ、と何かを諦めたようなため息を洩らす声が聞こえたのは同時だった。

「…仕方ありませんね。大目に見るのは今日一日だけですよ」

皆さんには私から言っといてあげます、と添えると、コツコツと足音をたてて、しかしその音もやがて聞こえなくなると、ルークは大きく息を吐いた。

「ルーク」

「ほんと、どうしたんだよ?」

夢見心地な笑みを浮かべ、愛の言葉を囁くような声で名前を呼ぶガイにつられて、ルークも目を細めて笑う。

ガイも自分も、お互いに甘いな、なんて思いながら、漸くルークもガイの背中に腕を回した。



Fin.




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