突発

□届かない願い
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※ほんの少しですが流血表現有












その答えを導き出せたとして
いったい俺に、何が出来るだろう。










『届かない願い』











いつもそれは、唐突に始まる。

「人間はどうして生きているんでしょうか」

日が沈み、暗くなった夜空を見ると、この子は会話を始める。
誰に話すでもなく、答えを求めることもない。
一方的に紡がれる問いかけ。

「死んじゃいけないなんて、誰が決めたんでしょうか」

言葉を紡ぎながら、彼は自身の左手首に赤い線を引いていく。
右手に握られた、使い込まれた剃刀で。

「自殺がいけないことなんて、誰が決めたんですかね」

そんなことを言いながら、また一つ線を引いていくのだ。

最初の頃は止めさせようと努力したが、余計にこの時間を長引かせるだけで逆効果だということがわかってから、何も言わないようにしている。
それに、放っておいても死に至るほどの傷は作らないから。
この子の中に“戒め”が残っている限り。

「生きていれば良いことがあるなんて、誰が言ったんだろう」

死を夢見て、死に焦がれて、死をこんなにも望んでいるこの子を生に縛り付けているのは“死んではいけない”という、常識と呼ばれる世の中の決まりだ。
太陽が昇っている間、アレン・ウォーカーとして‘普通’の人間を演じるために必要とする知識が、夜になってもこの子の行動をどこかで制限しているのだろう。

「いつになったら、僕は死ぬのかなぁ」

だから、この子は待っている。
自分では叶えられない願いを叶えてくれるその時を。
誰かを。

「・・・そろそろ眠る時間さ、アレン」

いつしか止まっていた右手から剃刀を取り上げて、きちんと聞こえるように耳元で告げる。
返事はいつも通りない。
それはもう、この行為に満足した証でもある。

「ほら、ベッドに行こう?」

あらかじめ用意してあったガーゼで傷口を覆って、そこを押さえるように握って立ち上がらせる。
何も映していない瞳が一瞬だけ痛みで揺らぎ、それから俺をとらえる。
驚いたような、珍しいモノを見るような顔をした後、彼はいつも通り綺麗に笑って唯一俺に向けられる問いを口にする。



「貴方は、いつ僕を殺してくれるんですか?」












あぁ、その答えを導き出せたとして
俺は何がしてやれるというのだろう。



















2009.5.9

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