旧書庫のため非公開

□たいよう(AllenSide)
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本当に大切なものなんて、もうつくらない。
そうすればもう失くす苦しさも悲しみも、知らないですむ。
そう思っていたのに。
この思いを止めることなんて、きっともう、できない。








たいよう










町外れの丘の上。
見晴らしの良いこの場所は僕とラビのお気に入りで、秘密の場所。
ここを教えてくれたのはラビ。
お互いの任務がない日は、よくこうしてここに来て他愛ない会話をする。
よく迷子になる僕は城下の町に出るのも何だか怖くて、いつも部屋にいた。
そんな僕を連れ出してくれるのは、いつだってラビだった。

「ラビは、太陽みたいですね」
「なんさ、突然」

目の前に広がる夕焼けを見ていたら、ふと思ったのだ。
あのオレンジがまるで、ラビのようだと。

「髪の毛とか」
「見た目かよ」

拗ねたみたいに頬を膨らませる姿がまるで小さな子供みたいだ、なんて言ったら怒るんだろうな。
僕より3つも年上のこの人は、何でも知っていて大人っぽくて。
けれど時々見せる笑顔とか態度とかが子供っぽくて。
一緒にいると、とてもとても、安心するんだ。

「それに・・暖かいし、僕をいつも照らしてくれる」

いつも隣にいてくれて、いつもその笑顔で元気をくれる。
それはまるで毎日当たり前のように空で輝く太陽のようで。
でも本当は、それだけじゃない。
あなたはブックマンの次期後継者。
沈んでいく夕日のようにいつかはいなくなることがわかっている、そんなところが似ていると言ったら、あなたはどんな顔をするんだろう。

「ん〜、それを言ったらアレンも太陽みたいさ」
「・・・僕が?どこがですか」

太陽に例えられたのは、初めてだった。
日に焼けにくい肌と白い髪のせいで雪みたいだとか、この左腕と頬の傷のせいでとても醜くて汚いものに例えられたことはよくあったけれど。
どこをどう見たら僕が太陽に見えるのかわからなくて隣を見れば、まっすぐ前を見据えるラビの横顔があった。
夕焼けのせいで赤みを増した髪の毛が風に揺れて、やっぱりラビは太陽みたいだなんて思っていたらラビが視線を僕に移した。

「あったかくて、キラキラしてて・・太陽って言うよりは陽の光みたいさ」
「そんな、キレイなものじゃないですよ・・僕は」

深緑の瞳で見つめられながら言われて、全身の血液が顔に集まってくるような感覚に襲われる。
ふざけたような表情じゃなくて真剣な顔で言われたから、恥ずかしくなって慌てて俯いた。
いつもみたいにからかわれているとわかればこんな気持ちにはならないのにとか、どうしてこの人はこーゆー時だけ真面目な顔をするんだそんなの反則だとか、いろいろ考えていたら頬に手があてられて無理やり視線を合わせられた。

「アレンはキレイさよ。すごくすごく、キレイで可愛い」
「っ!!」

ああもう、どうしてこの人は。
人の気も知らないでこうやって、溢れ出しそうな気持ちに一生懸命耐えている僕の努力を簡単に無駄にしてしまう。
あなただってわかっているはずだ、この想いが報われないものだということを。

「・・やめてください。そんなこと言ってもなにもでませんよ」

強い力ではないけれど、頬に添えられた手のせいで俯くことも顔を逸らすこともできない。
けれど心の中まで覗き込んでくるような視線に耐えられなくて、視線だけは逸らす。
それでも視界の外でラビが笑ったのが気配でわかって、なんだか余計に恥ずかしい気分になっていたら頬にあった手が今度は頭に置かれた。
そして小さい子をあやすみたいに、ゆっくりと撫でられる。

「うん、でも、ホントのことだから」

見えないけれど、きっと今のラビは穏やかに笑っているのだろう。
教団内じゃ滅多に見せない大好きなその笑顔が見られないのはちょっともったいない気がして、逸らしたままだった視線を戻してみる。
そこには予想通り優しいラビの笑顔があって、なんだか嬉しくなって僕も笑ってみた。

「っ!あぁ、もう!!」
「え?」

そしたら一瞬驚いたような表情をしたラビが、頭に置かれたままだった手に力をいれて僕を引き寄せた。
突然のことでバランスをとることもできず、ラビの腰に抱きつくみたいな格好になってしまう。
そのままギュウギュウと抱きしめてくるものだからだんだん息苦しくなってきて、いきなりどうしたのかと顔を上げたそのときだった。

「大好き、アレン」
「っ!?」

耳に直接吹き込むように発せられた言葉で、身動きがとれなくなった。
いつもより低音の声で言われたその意味を、わからないほど僕も子どもじゃない。
毎日のように聞いているのにこんな風に言われるとやっぱり恥ずかしくて、でも嬉しくて。
大きな背中に腕をまわして、そっと抱き返してみた。

「ぼ、くも・・・」

好きだよと、言ってしまえたらいいのに。
臆病な僕は、やっぱりまだそれを口にはできない。
それでもあなたを好きだと思うこの気持ちに嘘はつけそうにないから、精一杯の大好きを込めてまわした腕に力を込めた。










いつか別れる時が来ることはわかっているけど。
朝になればまた太陽が昇るように、今だけは永遠を信じてみたいと思ったんだ。







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