旧書庫のため非公開

□たいよう(LaviSide)
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許されないことだとわかっていた。
いつか名前も捨て存在さえなかったことにしてここから去る身で、あの人一倍寂しがり屋なあの子を好きになるということがどういうことなのか。
何かを失うことを極端に嫌うあの子を残していつか消えなきゃいけないことが、どんなにあの子を傷つけることなのか。
十分わかっているつもりだった。
それでも、この気持ちを押さえることなんてできなかったんだ。








たいよう









任務のない久しぶりの休日。
アレンも任務がないことを知って、デートに誘った。
場所はいつもの丘の上。
町から少し離れたこの場所はとても静かで、少し高い位置にあるから見晴らしも良くて、昔から一人になりたいとき良く来ていた場所。
今ではアレンと来ることが日常になっている。
買い物とかお茶とかしに町に出るのも良いけど、こーやって誰にも邪魔されずにアレンとふたりきりになれるこの場所と時間が俺はとても好きだった。

「ラビは、太陽みたいですね」
「なんさ、突然」

いつの間にか夕暮れ時になった頃。
話のネタもつきてきたしそろそろ帰らなきゃななんて思っていたら、突然アレン
がそんなことを言い出した。

「髪の毛とか」
「見た目かよ」

それは良く言われることだった。
だから別に気にしてはいないけれど怒ったフリをしてみたら、アレンが小さく笑
った。
いつも笑顔を絶やさない子だけど、こうやって自然に出てくる笑みの方が俺は好きだ。
普段から無茶ばかりするこの子は辛いことも悲しいことも笑って誤魔化そうとするから、笑っていてもどこか苦しそうに見えてこっちまで苦しくなってくる。
けどこうやって笑う時だけは本当なんだと思えて、幸せそうなその姿に安心していた。

「それに・・暖かいし、僕をいつも照らしてくれる」

そんな笑顔のままそんなことを言われて、顔が熱くなる。
自分が今どんな表情をしているのかわからなかったけど、そうとう情けない顔をしている気がしてアレンに悟られないように前を向いた。
恥ずかしがり屋なくせに時々こんな風にかわいいことを言うから、とてつもなく嬉しい反面ものすごく心臓に悪い。
照らしてくれる、なんて。
いつも照らされているのは俺の方だ、と思って気がついた。

「ん〜、それを言ったらアレンも太陽みたいさ」

誰の上にも平等に光を注ぐ太陽みたいにみんなに優しくて、敵であるはずのアクマでさえも愛そうとするその姿は希望の象徴である太陽そのものなんじゃいだろうか。
戦いの中でも思いやりとか忘れずに誰かを大切にするその姿に救われたのは、きっと俺だけじゃないはず。

「・・・僕が?どこがですか」

心底わからないと言いたげな瞳を向けられたのが雰囲気だけでもわかって、ため息をつきたいような笑いたいような複雑な気持ちになる。
当の本人はまったく気づいていないんだ、荒んだ戦いの中でそれがどれだけ貴重で大切なものなのか。
俺にとってそれが、どれだけ愛しいものなのか。
気づいてほしいけど、気づかれてしまったら失われてしまう気がして言えはしない。
せめて俺にとってアレンが大切であることをわかってほしくて、目を合わせて言う。

「あったかくて、キラキラしてて・・太陽って言うよりは陽の光みたいさ」

とたんに真っ赤になってアレンは俯いてしまう。
さっきの自分もこんなだったのだろうかと思うとなんだかおかしかった。

「そんなキレイなものじゃないですよ・・僕は」

手をギュッと握りあわせて顔を赤く染めている姿は、まるで女の子のようですごくかわいい。
けど、‘キレイなものじゃない’と言う言葉の中に過去の傷を見た気がして悲しくなった。
小さい頃その左腕のせいで忌み嫌われたり、色の抜けてしまった髪や頬の傷せいか、アレンは自分のことを過小評価している節がある。
それが許せなくて、もっと自分を好きになってほしくて、わざと左頬に触れて顔を上げさせた。

「アレンはキレイさよ。すごくすごく、キレイで可愛い」
「っ!!」

まるで爆発したみたいにさらに真っ赤になったアレン。
身を捩って逃げようとするけど離してあげる気はなかった。
アレンは醜くないし汚れてもいない、愛されている存在なんだと思えるようになってほしい。
ブックマンの次期後継者だとか使命だとかそーゆーものを無視してでもそばにいようと思ったのは、それが今の俺の一番の願いだと思ったから。
それを叶えるためには何だってしてあげたいし、愛してあげたい。
たとえいつか終わりがくるものだとわかっていても。

「・・やめてください。そんなこと言ってもなにもでませんよ」

困ったように視線をさ迷わせながら、でもどこか嬉しそうな表情が見れて満ち足りた気分になる。
たぶんこの関係が永遠に続けられないことを、アレンもわかっている。
それでもこうしていられる間だけはこんな風に幸せを感じさせてあげられる、そのことが嬉しかった。
なにもあげられないと言うけれど、俺はアレンからいろんなものをもらっているわけだし。

「うん、でも、ホントのことだから」

赤みの残ったままの頬から手を離し、夕日に染まって銀色に輝く髪に触れる。
これするとアレン喜ぶんだよなぁとか思いながら頭を撫でていたら、少しだけアレンが顔を上げた。
よっぽど恥ずかしかったのか少し涙が浮かんだ瞳で見上げられるだけでイケない気分になってくるのに、次の瞬間向けられた笑顔で頭の中で何かがキレた。

「っ!あぁ、もう!!」
「え?」

考えるより先に身体が動いていて、気がついたらアレンを抱きしめていた。
あんな可愛い顔されて平常心でいられるわけがないんだだからしかたないんだと言い訳しながら、ここまできたらヤケだと抱きしめた腕にさらに力を込める。
突然のことに驚いたのか身動き一つしなかったアレンだが、しばらくするとさすがにおかしいと思ったのか離れようと動き出す。
けどなんだか離してあげる気になれずむしろもっとくっついていたくて、耳元に唇を寄せた。

「大好き、アレン」
「っ!?」

アレンが弱いとわかってるとっておきの低音で囁けば、とたんに抵抗がなくなる。
見えないけど顔はまた真っ赤になってるんだろうなぁなんて思って笑っていたら、背中に何かが当てられた感覚がした。
ちらりと視線を落としてみれば、それはアレンの腕だった。

「ぼ、くも・・・」

今にも消え入りそうな声が聞こえて、まわされた手に力がこもるのを感じて、目眩がしそうなほど幸せな気分になる。
スキンシップが苦手で極度の恥ずかしがりなアレンにとって、この行動がどれだけ勇気のいることかわかっているから。
だからきちんと答えるために、ありったけの‘愛してる’をこめて強く強く抱きしめた。









先のことなんて今はまだ何もわからないけど。
太陽がいつも輝くように、その笑顔を失わないよう頑張ってみようと思ったんだ。






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