アスシカ

Starting Over
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「アスマ...!」


縋りついた胸は懐かしい煙草の匂いがする。オレは無我夢中でアスマのシャツを捲り上げ胸に頬を寄せる。
粟立ったアスマの肌を感じたらもう止めることが出来なかった。


「...く...っ...こんなこと久し振りなんだ...そう焦るな...」


木の葉の制服を引き下ろしたらアスマのそこはもう下着を押し上げてた。その下着も剥ぎ取って唇を寄せる。
喉の奥まで咥えこんで思い切り舌を絡めた。懐かしい手のひらが髪を解いたオレの頭をゆっくりと撫で始める。
目を細めて遠くを見るアスマ。その存在を主張するように口の中で質量を増してく。


「シカマル...」


布団に倒れ込んだらアスマの手がオレの茎に触れた。痛いほど勃ちきったそれを扱き上げられ思わず声が洩れる。
吸い上げられたらもう余裕なんてこれっぽっちもねえ。口の中のアスマを甘く噛んだらアスマもう、と呻いた。


「...ひ...ッ!」


ズブリと差し込まれた指に出た悲鳴にも似た声。しょうがねえじゃねえか。オレだってずっとこんなことしてねえ。
ほんの少しの痛みとその奥から湧き上がる快感。抜き差しされるごとに濡れていく先端をアスマの舌が舐め取る。


「シカマル...そろそろいいか...?」
「ん...もう...早く...!」


痩せぎすのオレを包み込んだアスマの太い腕。徐々に侵入してくるアスマを感じたら身体中が痺れた。
オレの一番敏感な場所を狙って突き立てるアスマを急かすように腰を振る。
だけど身体が思い出した恍惚に我を失ったのはオレの方だった。アスマの背中に腕を回し全力でしがみつく。


「あ...あぁ...」
「く...シカマル...少し力抜け」
「アスマ...ぁ...」
「そんなに締めつけられたら...持たねえぞ...」
「も...いぃ...から...!」


触られてもいねえのにもう今にも弾けそうだった。腰がぶつかる湿った音と荒くなってく息遣いが響く。
その音と限りなく絶頂に近い快感が全身を包む頃、アスマの手は力を込めてオレの腰を揺すった。


「ああああ...っ...!」


アスマは辛そうな顔で少しだけ笑うとその動きを極限まで速めた。
腹の中に熱を感じたのとオレがアスマの手に精を吐き出したのはたぶんほぼ同時だった。



なぜだかは知らねえがアスマの姿はオレにしか見えねえらしい。
集合をかけていのとチョウジを待った焼肉屋Q。隣に座るアスマの煙草が煙たくてオレは少しだけ噎せた。


「おひとり様ですね」
「いや、あとから連れが来っから...全部で4人」


テーブルに運ばれてきた一人分の水と割り箸と突き出し。怪訝そうに眉を顰めたオレに店員が焦った表情になる。


「もう一人分欲しいんだけど」
「え...?」


その瞬間思い出した。アスマは生き返った訳じゃねえんだってこと。
とりあえず持ってきてくんねえかな。店員は不思議そうに首を傾げながらそれでも何とか要求を呑んだ。


「そういやカカシの奴に声をかけたら無視されたな」
「...ってことは...」
「少なくともカカシと今の店員には俺の姿は見えてないんだろうな」


遅れること15分。任務が長引いて少し遅れるっつってたいのとチョウジが来た。
オレの隣りにはアスマがいる。なのにチョウジが座ろうとしたから思わず慌ててそれを制した。


「ここにアスマがいんだ」
「はぁ...?ちょっとシカマル、あんた大丈夫!?」
「...おまえらにも見えねえのかよ...」
「アスマ先生のこと好きすぎておかしくなったんじゃないでしょうね!?」


オレ以外の網膜には像を結ばないアスマが苦笑いでよせ、と合図を送る。切なそうな表情。
チョウジはそれでもいのの隣に座って、上カルビ10人前なんて無茶なオーダーを入れた。


「シカマルはホントに先生が好きだったもんね」
「...よせよ」
「まさかまだ泣き暮らしてるんじゃないでしょうね、シカマルがそれじゃアスマ先生だって浮かばれないわよ?」


本人を目の前にして恥ずかしいこと言ってんじゃねえよ。なのに二人の言葉は止まらなくて顔が熱くなり始める。
生前と変わらずにタバコをふかしてるアスマがニヤニヤしながらオレの顔を見る。
これでオレにも見えなかったらなんて悪趣味な野郎だ。酒が入り始めたいのとチョウジの口がどんどん軽くなってく。


「...ヤキモチ焼いてるシカマルとか、ホント見てられなかったわよ」
「まあまあいの、それだけシカマルは真剣だったんだから」
「アスマ先生もアスマ先生じゃない、子供まで作っておきながらシカマルに手を出すなんて」
「うーん...きっとそれだけシカマルのことが好きだったんだよ、純粋な気持ちだったとボクは思うな」


オレがずっと飲み込み続けた言葉をそうとは知らず本人が聞く。こんな状況じゃ飲み続けるしかねえじゃねえか。
大して好きでもねえ酒を呷り続けたらだんだん意識が遠くなった。
それでも何も言わずにいる自分をなかなか凄げえなと思いながら、甘いような苦いような酒を次から次に流し込んだ。


...


「...シカマル、大丈夫か」
「...大丈夫な訳ねえだろ...あんだけ飲み続けたんだぜ?」


それもそうだな、と笑いながらオレの横に座る。現れたときと同じように暗闇に浮かび上がるアスマ。
アスマはポケットから潰れかけの箱を取り出すと、煙草に火をつけてふうっと深く息を吐いた。


「なぜオレがおまえにしか見えないのか、分かったような気がしてな」
「...なんだよ」
「...おまえ、オレに言いたいことが山ほどあったんだろう」


これから先の展開は200通りも頭の中に浮かぶ。オレはこの時点でもう涙を流してた。どの選択肢を選んでも結末は1種類。
アスマは煙草をうまそうに吸いながら全部話せと穏やかに笑う。
またアスマが消えたあとはきっともう二度と会えねえ、少なくともオレが生きてる間は。
ぼんやりと光ってるアスマに向けてオレはずっと我慢してた胸の内を話し始める。


「オレ...紅さんがうらやましかった、アスマのガキが腹ん中いるって知って」
「...すまん、シカマル」
「いや、そんなことが言いたいんじゃねえんだ...アンタが死んだあと、なんでちゃんと言ってやらなかったんだろうって...
今さらだけど、オレ生まれてくるガキの面倒...アスマの分もちゃんと見るから」
「シカマル...」
「それに...オレの作戦が遅すぎたせいでアンタをこんな目に遭わせた」
「そりゃ違うぞ?想定外の敵だったんだ、おまえ以上の分析力がある奴なんかそうはいない」
「...でもこっから先あんなんじゃダメだ、木の葉の玉たちを守ってかなきゃなんねえんだからな」


短くなった煙草を飲み終わったコーヒーの缶で揉み消すアスマ。オレの頭を撫でながら優しい笑顔になる。
もうオレはガキじゃねえんだ。そんな仕草やめろよ。班を組んだ頃のこと思い出しちまうじゃねえか。


「...それだけじゃないだろう?言いたかったのは」


ああそれだけじゃねえ、それだけじゃねえよ。


キスされたときオレがどれだけ嬉しかったかわかるか?
初めはいいかげんな大人だぜってだけだった。いつしか尊敬に変わった気持ちはこれもまたいつの間にか恋心に変わった。
任務で危険な目に遭うたびさりげなくオレたちを守った太くて強い腕。その腕に憧れて柄にもなく体術の訓練なんかしてよ。


紅さんがいるなんて言われなくてもわかった。っつーかアンタは何するにしてもあまりにもわかりやす過ぎんだ。
オレを抱きながら辛そうな目をしてたのは罪悪感なんだろ?しかもそれは紅さんへのじゃねえよな?
オレたちの関係が陽の目を見ることがねえことはわかってて続けてた。嬉しそうに笑うアンタの笑顔が大好きだったんだ。


十班に配属されてマジで感謝してる。じゃなきゃオレなんかうだつの上がらねえ下忍のままだったかもしれねえ。
大して食いたくもねえ焼肉屋もあの班だからこそ通い続けられた。幼なじみと気の置けない上忍のフォーマンセル。
これから先オレは大人になって十班を超えるような班を作らなきゃなんねえ。そのためにも止まってちゃいけねえのに。


「...おまえなら出来る」
「アスマがいなくなったら...自信がねえ」
「おいおい、シカマルともあろう者がなに弱気になってる...火影にもなれる器だ、と俺は言ったはずだが?」
「...頑張らなきゃなんねえのはわかってんだよ...」
「俺に言いたかったことはそれだけで終わりか?...どうやら時間が迫ってきたらしい」
「...」
「俺は向こうでおまえたちのことを見守るとするよ」


さっきより弱くなったアスマを包む光。きっとアスマはもうすぐいなくなる。二回目のサヨナラをする。
半分透明になって消えかけたアスマを見たとき、一番言いたかった言葉がやっと口を衝いた。


「オレ...!すげー好きだった、アスマのことホントに好きだった...!!」


消えかけたアスマの影がオレに覆いかぶさる。オレを優しく抱きしめたアスマは小さな声でありがとう、と呟いた。
あっちの国で待っててくれよ。そう言ったオレに親指を立てて、石鹸の泡が溶けるみてえに柔らかく消えていった光。

...

「どうしたのシカマル、なんだか今日はやる気満々じゃない」
「ああ、不甲斐ねえまんまじゃアスマも浮かばれねえって、おまえに言われたしな」
「でもシカマルが元気になってよかったよ、きっとアスマ先生も喜ぶと思うよ」

ああ、そーだな。きっと今頃アスマは笑ってるはずだ。オレに大事なことを教えるために一瞬だけ戻ってきたアスマ。
向こうでオレたちのことを見守る。そう言った言葉はきっと真実だろう。嘘をつくような男じゃねえのは一番よく知ってる。

「また歩き出さねえとな」

大きく踏み出したオレのあとをいのとチョウジが慌ててついてくる。
アスマの姿が見えなくなってもオレはもう止まったりしねえ。姿を見せなきゃならねえほど心配をかけたりしねえ。
ポケットの中のライターをいじりながら空に向かって笑ってみた。アスマの笑い声が聞こえたような気がした。
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