飛角もしくは角飛

限りなく明るい未来
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真っ暗な穴ん中じゃどれくらい時間が経ったかなんてわかるもんじゃねー。
アリを数えて時間を潰してたけど100匹数えたあたりでめんどくさくなってやめた。
...言っとくけどそれ以上の数だって数えられっかんな?
ミミズが顔の方に来てくすぐったくってしょーがねーから必死で顔を動かして逃げた。
せいぜい2,3センチしか動けてねーってのに、もう顔じゅうがつりそーに痛てェ。

ちくしょー、さっさと助けに来いっつーの相棒。
おめーがいなかったら不死身でいる意味なんかねーんだぜ?
何回バラバラになっても角都がそこにいる限りオレは生きてなきゃなんねーんだ。
この世界はきっと永遠につまんねーままなのに、角都だけ置き去りにしたらかわいそすぎるんじゃね?



「...なんでついて来いなんつったんだよ」

オレたちがやり合うのは日課みてーなもんになってた。
"似たようなもん"って意味を聞いても口を開かねーあいつにイラッと来てたってのもあるし
夏だってのに暑苦しいマントなんか着せられて不機嫌だったってのもあった。
オレの身体は血まみれになって角都の触手はところどころ短い。
そんな中どこにいるかわかんねー尾獣を探し続ける毎日も、もういいかげん嫌気がさしてきてた。

「...黙れ」
「黙んねーよ、オレといんのがヤならさっさと別のヤツ探しゃいーだろーが」
「...黙れと言っている」
「もうやってらんねーよ、おめーは何も話さねーしこんな旅しててもちっとも面白くねェ」
「...」
「オレは一人で布教の旅に戻るわ、それで元通りってことでいーだろ」

オレはジャシン教が広まりゃいいんだし、わざわざジジイと喧嘩しながら旅をする必要なんかねーんだ。
着心地の悪い厚手のマントを脱ぎ捨ててあいつの方へぶん投げてやった。
なのにその場を立ち去りかけたら黒い触手が急に伸びてきて身動きが取れなくなった。

「いーかげんにしろって!」

怒鳴りつけたオレとは対照的に抑揚のない角都の声。

「...オレの連れはおまえにしか務まらん」
「...ハァ!?なんだよそれ!?」
「この通り短気だからな...今までの相方は一人残らず死んでる」
「死んでるって...テメーが殺したんだろーがそれ」
「...だがおまえのことは殺せない」
「そりゃ不死身だかんな」

長い沈黙のあとであいつは少しだけ頭を下げた。
角都がオレに謝ったのなんて後にも先にもあの時一度きりだ。
気を悪くしたなら謝る。そう言われてなんとなくオレの機嫌は治った。
毎日の喧嘩は変わらなくても、オレがコンビ解消を言い出したことなんてあれから一度もねェ。

人目を避けて行うあの儀式をあいつが見つけちまったのも、
ちくちくと首を縫いつけたあいつのどこか嬉しそうだった顔を見ちまったのも。

いつの間にかオレは、あいつと出会ったのは運命なんだと思うようになってたから。


いきなり目の前に日が差して、思わず眩しくて目を閉じた。
慣れ親しんだ感触の黒い糸が束になって、穴から土の塊を掻き出していく。
...んだよ、来るのが遅せーんだよ。
わざと何も言わず薄目を開けて見てたら、必死な顔の角都が全身の糸を総動員してた。

「飛段!」

つぎはぎの腕がオレの頭をひっつかんで地上へと連れ出す。
あまりにも悲愴感漂うその声がおかしくて、笑いをこらえながら気を失ったふりを続ける。

「飛段、おい飛段」
「...」
「目を開けろ飛段...!」
「...」
「飛段、おまえがいなくなったら俺は...!」

かなり耐えたんだケドな...あいつが強く抱きしめっから息が苦しくなってついに声を出した。

「...ぶはァ...!!」
「...飛段...!」
「...で、オレがいなくなったらおめーは何だって?」

ニヤニヤしながら尋ねたら思いっきり地面に叩きつけやがった。
バーカ、超スーパー激痛だっつーの。
いつも冷静なおまえがあんなに焦ったとこ、しかとこの目で見ちまったかんな?

フン、と鼻を鳴らしてバラバラになった体を集め出した角都はオレの方を見ねェ。
面白くねーから後ろ姿に向かって冗談なんか言ってみた。

「早くしろ角都ゥ、オレ今日のおめーになら抱かれてもいーぜェ?」

どーせ「馬鹿が」とかって言われると思ったのに、あいつはつかつかっとオレの方に戻ってきた。

「...どういう意味だ」

...へ?
...そんな真剣な顔で言われたら、なんて返しゃいーかわかんねーんだケド...

「あ、えと...」
「さっさと答えろ」
「あ...だから、オレ...」
「...」
「おめーのこと、好きだわ」

人の顔をじっと見る角都のプレッシャーに負けて思わずホントのことを言っちまった。
それを聞いた角都はそうかなんて頷いてまた体を掘り始めた。

「おい、なんとか言えよテメー...こっ恥ずかしいじゃねーかバーカ!!」
「さっきの言葉、ちゃんと守ってもらう」
「...ハァ...!?」

オレの身体を拾い集めてから縫い終わるまでの角都の動きの早かったことったらねーわ。
ついでにまだ動きのぎこちないオレを担ぎ上げて街への道を歩くスピードも。

「おい角都...まさかおめー...」
「今のうちしっかり体を休めておけ」
「んだよそれ、体目的かテメーは!?」

ジタバタ動いてみたけどあいつはオレを担いだまま離そーとしなかった。
口ではあんなこと言ってみても角都のキモチはわかっっちまったから試しに抱きついてみた。

どんだけ喧嘩してもオレは角都の心臓を潰せなかった。
角都だって縫わなきゃなんねーほどの傷をオレに負わせたことはなかった。
これからどんだけ喧嘩したとしても、きっと永遠にねーだろーと思う。
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