Novel Y

□甘く惑わすストロベリーレッド
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−−甘い、甘すぎますよ。
貴女、本当にあの人の姪ですか?






大量の書簡を抱え込み、覚束ない足どりで回廊を歩く一人の少女−−紅 秀麗。



−−御史台に配属したあの少女は、相変わらず甘いのだろうか?

ふと楊修はそんな事を思った。


けれど、次の瞬間にはそんな思考も捨て、仕事に戻ろうと秀麗とは反対の回廊を歩き始めた。


−−−が、



「…ッ、キャアア!」
秀麗の悲鳴と共にバサバサッと重たい書簡も崩れ落ちた。



「……大丈夫ですか?」

回廊に書簡を散らばせ座りこんでいる秀麗の前に、楊修は手を差し延べた。


「…だ、大丈夫です。ありがとうございます」

楊修の手を借りて秀麗は立ち上がった。


「…気をつけてくださいね?紅御史。」

「はい。すいません…」

楊修は書簡を拾い、秀麗に渡した。


「はい。これで全部かな?」

「そうです。本当にありがとうございます!!…あの、その書簡も…」

秀麗に渡した書簡は最初の半分になっていた。あとの半分は楊修がそのまま手に持っていた。


「この書簡は吏部に持って行くのでしょう?私も今そちらに用事があるのでついでに持って行きますよ?」


ニコリ…と優しそうな笑顔で微笑む。


「…ありがとうございます!!助かります」

秀麗の一言に楊修の優しい笑顔の瞳の奥が険しく光る−−

−−−やはり、いつまでも甘い。だから陸清雅に手柄をとられる

嘲りの目で秀麗を見ようとしたが−−



「…って言いたい所ですが、そう簡単に大事な書簡を見ず知らずの方に預ける訳にはいきませんので」

秀麗の顔付きも少女から一人の官吏になっていた−−


秀麗の表情に楊修は目を見張った
(…ほんの少しは…甘さがとれたか…?)



そう思いつつも、何故だか少しおもしろくなかった。

期待をしていたのだろうか?
−−この少女が甘いのを。



「…あの…?」
急に黙ってしまった楊修をオズオズと見遣る秀麗−−

−−失礼だっただろうか?


そんな秀麗の声が聞こえたのか、楊修は内心苦笑しつつもまたフワリと笑み、


「−−合格です」

ポンポンと頭を撫で、楊修はそう言うと立ち去った−−


「…へ?」

ポカンと立ち尽くし、わけが判らない秀麗。

「…何だったのかしら…って!!書簡−−!!」

楊修が書簡を持って去っていった事に気づいた秀麗。

大声で叫んだがもう遅かった−−





(まだまだ詰めが甘いですね−−)


楽しそうに笑いながら吏部へと楊修は戻った。





それにしても私をこんなにも甘く惑わすとは…


けれど甘いだけではない−−


まるで−−


苺の様に甘酸っぱく私を惑わす−−



「…私は昔から『紅』に弱い…」

『紅』は…私の特別な、色。




甘く惑わすストロベリーレッド

−−いつか貴女にも同じ気持ちを味わって貰いますから





〈終〉
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