NovelT
□6月
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六月。
湿った空気と天気の移ろいやすいこの時期、いつも桜の木の下にいた少女はいない…−−
何故なら…
「藍先生、こんにちは」
ニコォと効果音が聞こえてきそうな愛らしい笑みを振り撒けて保健室に少女はやって来た。
「いらっしゃい、秀麗殿」
あれから秀麗殿と少しずつではあるが仲良くなった。まるで友人の様な関係になりつつある今の状況に苦笑が零れる。
("友人"の関係を望んでいるわけではないのだが…)
「先生、今日もここでお昼食べても良いですか?」
「勿論だよ」
相変わらず、この少女はクラスに馴染めないでいるらしくお昼休みや休憩時間は私の所に来る。
それはとても嬉しい−−
けれど、一教師として言うべき事は言わないと。
「秀麗殿、たまにはクラスメイトでも誘ってお昼を食べたりしてはどうかな?」
途端、秀麗は顔色を変えた−−
「…ッ、だって…、話かけたら皆『キャァッ』って言って逃げていくんだものッ…、私だって、友達が欲しい…ッ!!」
ハラハラとその白い肌を滑り落ちる涙を楸瑛は白衣のポケットからハンカチを出して拭いとった。
「ごめん、秀麗殿…。友達…作ろうと頑張っていたんだ?」
コクリと頷く秀麗の頭を軽く撫でながら、もう一度「ごめん…」と呟いた。
地雷を踏んだようで秀麗は中々泣き止まなかった。
泣くとは思わずただただ楸瑛の中には申し訳ない気持ちとどうしたらまたあの愛らしい笑顔を見せてくれるか、それだけだった。そして見つけだした答えに楸瑛は息を吐いた−−
「ッ、しゅ、秀麗殿、私でよければ…いや、私の友人になってくれない…かな?」
自滅してどうする!と、心の中の私がそう叫んでいる−−
けれど…
「ッ、ほ、本当ですかっ?!!!嬉しいっ//」
君がこんなにも喜んでくれるから、私は後悔なんてしないんだ−−
六月、奇妙な関係になりました。
(恋人になるにはまず友達から−−)