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□St.バレンタインデー0214
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藍 楸瑛にとって、この日は一年の中でもっとも嫌いな日だった−−


St.バレンタインデー0214






「楸瑛先輩っ、受け取ってくださいっ!!」

「楸瑛さま、どうぞ」


私に、と贈られるその綺麗で甘い贈り物たち。一目で高価だとわかるものやら、渡す際に目についた絆創膏、つまり手作りのものやら…それらを一斉にどうぞと言われても、興味はない、むしろ迷惑だ。



「…有難う」

その言葉に感情は入って、いない。けれど、上辺だけしか見れない彼女達はその言葉に歓喜した。








「さて…、どうするか」
両手どころでは収まらない程のチョコレートを貰い楸瑛は途方に暮れていた。


そのままそこにペタリ、と座り込みチラッと 抱え込んでいるチョコレートたちを見て、大きなため息をついて空を眺めた。



(欲しいのは…たった、一個なのに)


そう、楸瑛はたった一つ、いつもその一つしか望んでいなかった−−−





鳥が飛んでいる様をぼうっと眺めていれば、不意に人影が見えた。


「藍先輩?」
どうかしましたか?と、心配そうに楸瑛の顔を覗き込んできたのは、楸瑛より二つ年下の少女−−紅 秀麗だった。




「…秀麗殿…、…大丈夫だよ、休んでいただけだから」

「えっ、あ、そうだったんですか…」


秀麗は恥ずかしそうに小声で『すいません…私ったら//』
と、口にしていた。


気にしないで、そんなこと。
それより気にして、この状況を。




「…今年も凄い数ですね」
秀麗は楸瑛の手元をみた。

「はは、そうかい?」

「えぇ。静蘭も毎年沢山貰ってきてますけど、やっぱり藍先輩が一番多いですね。…と、これどうぞ」
突然渡された包み箱に楸瑛は苦笑した。

「ありがとう、秀麗殿。…もしかしなくても私が最後かな?」

ちょっとだけ意地悪くなって聞いてみた。
秀麗は毎年、お世話になっているからという理由で皆にチョコレートを配っている。
秀麗の手作りチョコレートは毎年評判で、いつも趣向を凝らしているから貰う側はとても楽しみにしている。



「…はい。今日は藍先輩忙しいから放課後に渡そうと思っていて…」

「ははっ、秀麗殿からなら何時だって優先するのに」

「ふふっ、そんな事言っても何もでませんよ?」

「おや、それは残念だ」

そんなやり取りをして二人で笑いあって、秀麗は帰っていった。親切にも、大きめの紙袋を置いていって。



「毎年恒例だな…」
楸瑛はその紙袋に貰ったチョコレートを無造作に入れていった。ただ、一つだけ除いて。



(欲しいのは、たった一つ)

「義理じゃなくて、本命なんだよ−−秀麗殿」


そう言って断る事が出来ない自分自身の甘さと弱さがいやでも身に染みるこの日が、楸瑛はとても嫌いだった−−









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