NovelT

□8月
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−−八月、滾るような暑さと熱情
(突然現れた恋敵は親友−−)



学校も夏休みに入り、秀麗と会えない日々が続いていたが今日は、先日約束した…デートの日だ。
秀麗はデートとは思っていない所が楸瑛にとって不服な所だが仕方ない。自ら「友達」宣言したのだから。



待ち合わせ場所の駅に時間前に着いたが秀麗はもう来ていた。隣に見覚えがある顔と一緒に。

(………なんで、絳攸もいるんだ?!)



楸瑛に気づいた絳攸は怪訝な顔をしていた。


「兄様?どうされました?」
秀麗は絳攸の顔を覗いた。

「いや…、見たくもない奴を見かけてしまってな。」


「…見たくない奴ってもしかして私のことかな?」

楸瑛は二人の前に歩み寄っていった。


「……そうだ。だから、こっちに来るな!そのままどこか遠くへ行ってくれ!!」

なんでこっちにくるんだ?!と、そんな声が絳攸から聞こえてきそうな勢いだ。


そんな絳攸の視線を無視し楸瑛は秀麗に声をかけた。
「秀麗、おはよう。待たせてすまなかったね」
そう声をかければ、瞬間−−親友から物凄い殺気が飛んできた。

「楸瑛様、おはようございます!」
そう秀麗が挨拶をすれば益々、絳攸が不機嫌な顔で楸瑛を睨みつけてきた。

「……秀麗、今日は『友達』と遊ぶはずじゃないのか…?」

「そうですよ?…あ、藍 楸瑛様が私の…友達です!」
自慢げに言う秀麗がとても可愛いらしく思わず抱きしめたくなってしまった−−


「…………………そうか。……秀麗、ここを離れるなよ?こいつに話したい事があるんだ」

なでなで、と絳攸は秀麗の頭を撫でる。秀麗は嫌がる事なく、むしろ嬉しそうに瞳を細めていた。

その光景を見れば、嫌がおうでも胸がざわついて仕方ない。あらぬ詮索だってしたくなる−−


秀麗を一人にするのがとても心苦しい−−が、もの凄い勢いで首根っこを掴まれ路地裏に連れ込まれる楸瑛もまた自身の身の上も心配だ。


「で。なんっで、貴様が秀麗の『友達』なんだ?!」

「いや〜本当は恋人に−−」
なりたいんだけどね。と言うつもりが、絳攸の凄まじい睨みと殺気で言葉が出なくなった−−


「…お前が、秀麗の学校の保健医だという事は知っていた。だけど、秀麗とは何等関わりがないだろうと思っていた。秀麗から『はた迷惑な保健医がいる』と聞いた事もなかったし、お前の名を口にする事もなかった。だから安心していた。」

「はた迷惑って…」
相変わらずの辛辣な言葉に思わず苦笑が零れた。


「…秀麗に、近寄るな!」
ギロリ、と睨まれ絳攸が本気で秀麗を大事にしているのがわかる。この、李 絳攸という男は学院在学中は『氷の副会長』と異名をとる程、物事において恐ろしい程に冷徹で、そして完璧な人間だ。

けれど、楸瑛は絳攸こそが誰よりも人間くさいと、思っている。そして今、嫌がおうでも確認できた…。



「…それは、無理だよ」
楸瑛は、低い声で、けれどもはっきりとそう告げた。








 

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