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□9月
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九月

夏の残り香と、爽やかな秋風





『秀麗は渡さない』


楸瑛の頭の中には先日の秀麗とのデートの際、絳攸に言われたこの言葉がずっとうずめいていた。


「さて、どうしたものか…」
自室のソファに身を沈め、思う−−


(いくら親友といえど、秀麗だけは譲れない)
と−−


(結局先日のデートは絳攸と三人だったし、)
ムカ。


(秀麗とまともに話すら出来なかったんだ!!)

ムカムカッ!!


思い返せば本当に腹がたってきた。
今度こそ、二人っきりでデートをする!!
絳攸に負けるものかっ!!


楸瑛が自室で一人意気込んでいる同じ刻、秀麗もまた自室にいた−−



(この間は、三人で遊んで楽しかったな…)

楸瑛とは違い、秀麗はとてもご満悦の様子だが…


(…でも…今度は、二人っきりで遊んでみたいなぁ…)


ほんの少し、秀麗の心にも変化が起きはじめていた−−





時折吹く微風が心地良い。まだ夏の香りが漂う今時期がとても好きだ。


夏休みも終わり、また変わりのない学校生活が始まる。
楸瑛は、いつもの様に保健室に入り自分の椅子に座る。
登校してくる生徒達の話声が開けた窓から入り、瞳を閉じた。


(また、秀麗と会える…)
そんな事を考えていると、遠慮がちに保健室の扉を叩く音が聞こえた。

「はい、どうぞ?」
入室の許可を与えると、そこには楸瑛が最も会いたかった人物が立っていた。

「おはようございます、藍先生」
にこりと微笑んだ秀麗が入ってきた。

「おはよう、秀麗殿」


そう言い、中に入るようにと促した。


「あ、あの、先日は会って下さって有難うございました!」

勢いよく礼を述べた秀麗に苦笑しつつ、楸瑛も邪魔者(絳攸)がいたが秀麗がいただけで楽しかったので秀麗に倣って礼を言った。

「私も秀麗殿と会えてとても楽しかったよ」
口に出して言えば自然と笑顔になっていた。惚れた相手だから仕方ないといえばその通りだが…、楸瑛にとってそれは初めての感覚だった。
(そもそも私は…ちゃんと恋愛をしていたのだろうか?)

ふ、と自分の過去の恋愛経験を思い出してみるが…

(…あぁ、本気で愛した事なんて…なかったか…)


恋愛経験ほぼゼロと言っても過言ではない。


「…藍、先生?」

秀麗の呼びかけでハッと我に返った。


「あ、ごめんね。秀麗殿、冷たい飲み物でもどう?」

「あ、ありがとうございます…」

カチャカチャと、食器のたてる音が鼓動と重なる。
手際良くお茶の用意をされ、「どうぞ」と差し出された。

楸瑛の細く長い指が目にとまり綺麗だなぁ…なんて思いながら秀麗はお茶を受け取った。

「あの…また遊んでくれませんか…?」
不意にでた言葉。言った後で秀麗はハッとした。

(わ、私、今なにを言ったの…?!)


ワタワタと、焦る秀麗。迷惑じゃないか、そんな事を思いながら発した言葉の訂正をしようとした。
「あ、あのっ、……!!」


楸瑛と視線を合わせようと顔をあげれば…秀麗は言葉を失った。



「……私も、また秀麗と…遊びたい」
何時もの余裕な口調はどこへやら…
微かに頬を赤くさせながらも、その表情ははにかんだ、とても嬉しそうな顔をしていた。



ドクン、ドクンとまた高鳴る鼓動。
その理由はまだ、秀麗にはわからない−−





九月、季節と共に変化してゆく心−−




 

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