NovelT

□4月
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−−全てが色褪せてみえたんだ…




四月。

満開の桜並木の通りを、真新しい制服に身を包んだ新入生らがどこか緊張した面持ちで歩いている。

ここ『彩桜学園』は本日入学式を迎えた。



−−−−−



彩桜学園の正面入口とは真逆にある保健室。その保健室は桜を観賞するには絶景の場所であった。
ほんの少し窓を開ければヒラリ、と桜の花びらが舞落ちていった…


そんな様をゆったりとした面持ちで眺めていた男がいた。


名は、藍 楸瑛−−
この保健室の主だ。



彩桜学園で一・二を争う美形保健教諭で、女生徒や女教師から人気がある。また、楸瑛自身も女性には優しいし、家柄もなにもかも全てにおいて文句のつけようのない男だ。


そんな彼の心を満たしているのは、四季折々の風景と友人と、音楽−−そして、一杯の美酒。

それらが彼を支える全てのものだった…





舞落ちる花びらを眺め、美しい…と感嘆の息を吐き、地面を見遣れば桜の花びらでできた絨毯がひかされていた。


…とそこで楸瑛はぎょっと目を見開いた。

桜の花びらの絨毯の上に、真新しい制服に身を包んだ少女が眠っていた。


楸瑛は溜息をつき苦笑した。

(今年の新入生は大胆というか…)

そう思いながら、楸瑛は少女を起こした。


「君、そろそろ起きないと式が始まるよ?」


楸瑛の声に少女はピクリと、反応した。


ゆるゆると起き上がり制服についた花びらをほろって、楸瑛の方に振り返った−−



「……ご親切に…どうもありがとうございます…」

言葉は丁寧だが表情はまるで人形の様−−そんな少女と不意に視線が交わった。


美しく、けれども人形の様な少女−−


そんな少女の姿を見て楸瑛の世界は変わってしまった…



美しいと思っていた桜が色褪せてみえる…


楸瑛の中の止まっていた時が少しずつ動き始めた−−



  


四月、鮮烈な出会いと色褪せた桜。
(全てが霞むまばゆい君)



    
 

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