■記憶■
□TOO MACH PAIN
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昼のピークの時間は過ぎた頃だと思っていたが、
以外にも店内は満席に近い状態だった。
テーブル席は埋まっていた為、俺と京香さんはカウンター席に腰を下ろす。
カウンター内で忙しそうに動き回っている店主っぽい中年の男が、
京香さんに気付いて愛想よく手を振ってきた。
京香さんもそれに笑顔で会釈を返す。
どうやら知り合いのようだ。
「この店にはよく来るんですか?」
一連のやりとりを見てなんとなく聞いてみる。
「うん。事務所から近いし、おじ…店長さんとも知り合いなのよ。」
少し恥ずかしそうに照れながら京香さんが答える。
まだ若いのに定食屋のオヤジと顔見知りになるなんて…渋いな。
なんて事はもちろん口に出さず、相槌を打つだけにしておいた。
氷室さんに此処を教えたのも京香さんなのかもな。
ぼんやり考えながら店内を見回してると、京香さんがポツリと言い難そうに口を開いた。
「それとね…」
何かを言いかけようと口を開くが、暫く考え込むように視線を落とす。
京香さんの目に哀し気な色が宿った。
「それと…前に一度、ここの御主人から依頼を受けた事があって…お父さんが解決したんだけど…ほら…いなくなっちゃったじゃない?」
いなくなった。
京香さんは無理な笑顔を作って軽く流せる程度に言ったつもりだろうが。
でも、その言葉の重みを理解した俺は、咄嗟に反応できず、表情を曇らせ固まってしまった。
「解決したのは私じゃないから、お代はいりませんよって言ったのに、だったら代金分全部ご馳走するって聞かなくて。私がちゃんとご飯食べて元気でいる事が、鳴海さんへのせめてもの恩返しだって。」
…京香さんは困ったように小さく笑い、
「おじさん頑固だから」と付け加えた。
顔は笑っているが、その目から哀しみの色は消えない。
それはまるで、
「もう鳴海さんは帰って来ないかもしれないから」
と宣告されているみたいだからだろか。