卍謹厳実直卍


□僕の熱、君の体温(☆)
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暗い暗い闇の中、誰かの嗚咽が聞こえた気がした。

必死で手を伸ばしても、自分の手は神経を切断されたかの

ようにピクリとも動いてはくれない。

歯がゆかった。

とても間近に居るはずなのに、

慰めの言葉も行為もかけてやれないなんて。

日織だったらどうしようと思った。

僕は凄く日織を怒らせてしまったから。

酷く傷つけてしまったから。

泣いているのが日織だったらきっと僕の所為だから。

最初は怖かった。

あの優しい日織が、あんな事をするなんてって。

でも途中から、恥ずかしさはあったけどとても気持ちよくなった。

僕は狂ってしまったのだろうか。

同性に犯されて感じてしまうなんて。

でもそれは、恐らく元々僕の中にあった欲望だったのかもしれない。

怖かったし、恥ずかしかったけど、

嬉しい気持ちが一等強かった。

僕は多分、日織が欲しかったんだ。

そう、日織が欲しかった。

あの穏やかな口調や、困った様に微笑む顔や、

優しく髪を撫でてくれる掌や、全てが欲しくて仕方なかった。

だけどこの気持ちはいけない物だから。

この気持ちを伝えたところで僕と日織の距離は縮む訳じゃない。

寧ろ遠ざかるものだから。

僕はこの気持ちにきつく蓋をした。

意識的に線を引いて、他の友人達と同じ様に接するようにした。

それが逆効果だったのだろうか。

意識しすぎて、逆に日織を傷付けてしまったのだろうか。

でも僕は、やはり狂っているんだ。

怒りに任せた日織の行為を、贖罪の念も何も抱かず、

ただ悦んでいたのだから。

再び罪悪感に襲われたのは果てる時。

最後、意識を手放す瞬間、網膜に映った日織の顔がとても

哀しそうに謝罪の言葉を口にした気がしたから。

謝らなければいけないのは僕なのに。

日織がどんな思いでこんな事をしたのか考えもしなかったのに。

そして怖かったし悲しかった。

謝罪の後に続く言葉を聞きたくなかった。

だからそのまま意識を手放した。

罪悪感に苛まれながらも、自分を守る為に。
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