卍謹厳実直卍
□きみと手をとりいつまでも
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「きみと手をとりいつまでも」
ふうっと吐く白い息が、ピンと張った冬の空気に溶けていった。
僕はこの瞬間が、よくわからないけど大好きで。
子供の頃、一人で息を吐いては、口から吐き出される白い息を掴もうとジタバタしてたそうだ。
その都度姉ちゃんに、「変態みたいだからやめなさい!」って注意されていたようで。
随分と懐かしい事を思い出し、一人苦笑いを浮かべてしまう。
そんな僕に気付いたのか、目の前を通り過ぎた人がクスリと笑った。
うわ、見られてた…。
ニット帽を直す振りをして目深に被る。
ついでに腕時計に目をやると、時刻は16時半を少し過ぎていた。
日織との約束の時間から、もう30分も過ぎている。
周囲を見渡してみるが、日織の姿は見当たらなかった。
片手に持った携帯も、何の反応も示さない。
軽い溜息を吐いて、背にしたビルの壁に寄りかかる。
どうしたのかな
僕と日織が、いわゆる恋人同士という関係になって、数ヶ月が過ぎた。
あの凄惨な夏と、残酷な冬をともに過ごし、互いの絆は強固にはなったけど。
それでも僕の胸中には、付き合い始めの当初から燻り続けてる不安があった。
理由はいっぱいあって。
例えば僕が、恋人というものを持つのが初めてだというのもあれば、僕の何がいいんだろうっていうのもある。
そもそも日織は誰にでも隔てなく優しくて、本当に僕でいいのか?って気になるし。
それ以前に同性同士。
恋人という定義の根本から違うのだから、不安にならざるを得ないんだ。
日織はいつか、きっと、僕から離れて行ってしまうんじゃないかって。
そう考えると、いつものように胸の奥がギシギシと軋み出した。
少し屈み、コートの上から胸を掴んで、大きく息を吸う。