■物語■
□今、此処に在る真実
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「おい零一。いいのかい?こんな時間まで。明日は大事な卒業式だろ?」
昔からの友人が経営する酒落たBAR。
氷室はそこで一人、酒を飲んでいた。
友人の店主の気遣いを無視して、氷室は空いたグラスを彼の前に差し出す。
「まだ飲むのか?明日の準備とか有るんだろ?」
苦笑しながら、店主は空いたグラスに酒を注いだ。
「そんなものはもう終わらせてある。だからここに居るんだろ。」
いつも以上に厳しい氷室の口調に、店主は肩をすくめた。
「はいはい。…ったく。相変わらずだな零一は。そんなんじゃ、”彼女”にも逃げられちまうぜ?」
氷室は店主の発言に眉間に皺を寄せ反論する。
「何度も言わせるな。彼女は俺の生徒だ。」
無機質な表情を貼り付けたままグラスに口付けた。
店主は小さな溜息を吐いた。
「いい加減素直になれよ。大切な物は失くしてから気付くっつーけど、失くしてからじゃ遅いんだぜ?」
━大切なもの━
氷室は友人の言葉に耳を奪われた。
(大切。大事にしたいもの。失いたくないもの…)
ジリリリリ!
けたたましく目覚ましの音が部屋内に鳴り響く。
それと同時に、氷室の思考も現在へと呼び戻された。