一葉

□幸せになりたい
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連日の実動演習でかなり疲れたのだろう。
こんな風に寝顔を晒すなんてあり得ない。

ロックオンは自身の演習データを閲覧しようとヴェーダの端末室に来ていた。

いつもならターミナルユニットの方にいるティエリアが、珍しく端末の椅子に座り、その射るような瞳を閉じている。

あれだけの重量級のモビルスーツを動かしてるのに…パイロットである彼は対称的に華奢だ。

初めは女だとばかり思っていた。
まぁ…違ったわけだが。

「ティエリア…?風邪ひいちまうぞ?」

空調がきいてはいるが、眠るとなるといささか肌寒い筈だ。

冷えていないようでも、気がつかないうちに身体の芯まで冷えてるなんていうのはよくある事だ。

「おーい?」

近づいて声をかけるが反応がない。

仕方ない、このままっていうのも…風邪なんかひかれたら困るからと自分に言い聞かせる。

しかし、綺麗なやつだな。

ロックオンはここぞとばかりに眺める。
普段ならおっかなくてできやしない。

絶対零度のまなざしで、その美しい唇でどんな悪口雑言を紡ぎだすやら。

暫く眺めてから、周りを見渡す。

大概ここに詰めているスメラギさんやらが、ブランケットを持ち込んだりしてる

しかしつい先日の艦内の大掃除で撤去されたようだ。

そうこうしてるうちに、ティエリアが寒そうに震えた。

毛布もティエリアも運ぶにはかわりないし。とりあえずお姫様にお伺いをたてる。

「ティエリア、風邪ひくから暖かいとこ行こうな?」

「…ん…」

色っぽい鼻にかかる声、少し寄せられた眉すら魅惑的だ。

今のは了解なのか?お兄さん良いようにとっちゃうよ?

仕方なくため息をつき、覚悟を決める。

ティエリアを抱き上げて驚く。
やっぱり凄く軽い、小さな頭が俺の肩に預けられる。

「さむ…」

ティエリアが小さく呟く。

「ん、分かってるよ」

小さく震えるティエリアを抱えて、とりあえず自室に連れていく。

コイツの部屋でも良かったが、勝手に入って後でどんな目にあうか想像したくない。

ベッドに寝かせブランケットにくるまると、ティエリアは小さく丸くなって眠った。

小さな寝息が心地よい。

そう言えば、ティエリアは二人きりになると、纏う空気が柔らかくなる時があるな。

誰かがいる時はいつもの触れるものが切れそうな雰囲気を醸し出している。

だけど、俺と二人きりになるとその空気がふっと緩んでリラックスしてるように見える。
自惚れかな、それともコイツに惹かれてるから、そうあって欲しいという願望か?

ティエリアの綺麗な寝顔を見つめながら、ハロを待機モードにしてて良かったと心底思った。

部屋を暖かくして自身もベッドサイドの椅子に座り、読みかけの本を読む。

皆は携帯端末で本を読むが、俺はこの紙ベースが好きだ。

紙とインクの匂いは落ち着く。

読み耽って、ぱらりとページを捲るとき、視線に気付いた。

ティエリアが、ブランケットにくるまったまま綺麗な紅玉の瞳をこちらに向けていた。

「起きたのか?何か飲むか?」

本に栞を挟みながら、ティエリアに問うと

「水」

と、短く答える。

素っ気ないのはいつもの事だが、こんな姿を見せるなんて珍しい。
と、いうか天変地異だな。

ペットボトルの水をベッドに持って行く。

ティエリアはゆっくりと起き上がるが頭からブランケットを被って、ペタリと女の子のように座っている。

「どうした?」

「貴方が運んだのか?」

「そうだよ」

「そうか…」

瞳を伏せ何か考えているようだ。

キャップを開けてティエリアに手渡すと、ペットボトルを受け取り口に持っていくが…何か考えたまま、口を薄く開き、唇にペットボトルの口を当てたまま固まっている。

その…唇が…何て言うか…いかがわしい…。

って、俺!しっかりしろ、相手は男だ!

薄い、女のように紅い唇。
ペットボトルが当てられたソコは柔らかそうだ。

見とれてしまっていた。

「何故だ?ロックオン」

いきなり話しかけられて、我にかえる。

「な、何がだ?」

「どうして、貴方といる時私はこんな気持ちになるんだ?」

ペタリと女の子のようにベッドに座り、ブランケットを頭から被って上目遣いに俺に問いかける真剣なティエリア。

破壊力ありすぎ…お前。

本当鼻血でそう…。

「こんな気持ちって?」
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