一葉
□誘惑
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はぁ…。
ロックオンはため息をつく。
何やってんだろうな、俺。
ティエリアを好きだと自覚して、色んな事にまっさらなアイツに幸せにすると告白して…両思いだと分かって浮かれてた。
しかし、俺は何も分かってなかった。
俺のお姫様は…そりゃあとんでもなく純粋培養、無菌室で育ってたって事。
まさか…ここまでとは思わなかった。
色んな恋愛を経験してきた俺にとっては…もどかしい。
ぶっちゃけ色々イチャイチャしたい。
キスだって我慢してる、もちろん身体に触れるのだってお姫様が怖がらないよう、でも素っ気なくないよう、かなり気を使ってる。
たまに俺はお兄ちゃんか何かなのかという気分になる。
というか、保護者か?
そこまで考えてロックオンは頭を抱える。
も〜色々限界だ。
健全な20代男子として、この禁欲生活ってなんだよ。
柔らかい女を抱きたくなった、もちろんティエリアの替わりだ。
女が抱きたいんじゃない、ただ、この衝動をぶつけて吐き出したいだけ。
男ってどーしよーもない生き物だなと苦笑する。
つか、自慰じゃ収まりつかない。
もう、本能のまま、めちゃくちゃにしたい。
それぐらい溜まってるんだって事。
やれやれだ。
「アレルヤ、今度の休暇は俺とお前が先だったな?」
「そうです、ティエリアと刹那は3日遅れで休暇ですね。どうかした?ロックオン」
「なぁ」
アレルヤの肩に自分の腕をのせ、引き寄せ小声で話す。
「風俗行かねぇ?」
「へ?」
「経験ないわけないだろ?風俗は初めてだとしてもさ」
アレルヤは顔を真っ赤にしてしどろもどろ…まさか童貞か?
「確かに…ないわけじゃないけど…女性を買うのは抵抗が…」
俯いてぼそぼそ喋るアレルヤ。
どーもここに集まる奴らは生い立ちも関係してるのか、年齢に知識が追いついてないってか、経験が少ないよな。
「経験しとけよ一回くらい…てか、童貞喪失って彼女いたんだ?アレルヤやるな」
「いや、そんなんじゃ…!ロックオン何いってんだよっ」
本当にウブな奴らだなぁ、アレルヤといいティエリアといい…。
「ま〜考えといてくれよ」
そう言ってアレルヤの肩を軽く叩いて談話室を出た。
ロックオン…さすがは大人っていうか…。
なんでも経験済みというか。
取り残されたアレルヤはロックオンの出ていった扉をぼうっと見ていた。
僕だって、そういう衝動がないわけじゃない。
実際トレミーの女性クルーは…皆スタイルがいい。
しかもかなりきわどい…。
時々目の毒になる。
だけど…、女性を買うのは抵抗がある。
相手も仕事として割り切ってるのは理解できるが、男と違って受け入れるという性な以上…やはりそこに何かの感情がないと苦しいのではないかと思う。
例えば好きだという感情だとか、その相手を欲しいという欲求だとか。
だったら自分で処理しようと落ち着くのである。
それに僕には…、好きな子がいるから。
マリー、君は今頃どうしてるかな?
きっと綺麗な女性になってるだろうね。
君に会いたいよ。
「ロックオン、休暇はどうするんだ?」
ロックオンの自室でふたりは寛いでいた。
ロックオンは読書、ティエリアは端末をいじっている、いつもの時間。
最近は二人の距離が近くなってきている。
ロックオンはこれが早く0センチにならないかなぁなどと考える。
もどかしい微妙な距離感。
触れていいのか悪いのか、微妙な駆け引き。
「特に予定はないな、ティエリアより先に休暇に入って…街を満喫して、最後は南の島でのんびりかな?」
「そうか…街にはいつまでいる?」
「いや、特に決めてないが、何かあるのか」
「いや、ない」
素っ気なく言い、端末を閉じると立ち去ろうとする。
「消灯だ、帰る」
確かに消灯5分前だ。
「…ティエリア、4日目さ。デートしようか?」
ティエリアが扉を開ける直前、そう声を掛けてみる。
「アナタがしたいのなら、してやってもいい」
此方からはティエリアの髪をかけた耳と頬までしか見えないが、真っ赤になってる。
可愛い、ホント素直じゃなくて可愛いよ。
そのまま、こちらを向く事なく扉を出ていくティエリア。
「おやすみ、ティエリア」
「…おやすみ」
そして扉は閉じられた。
だが…カーディガンが少しだけ挟まっている。
この部屋の扉はオートではなく、手動にしてあるので珍しい現象が起きていた。
きっと扉の向こうで今頃、心臓バクバクさせてるティエリアがいるんだろうな、と思いながらちょっと嬉しくなる。
そっと扉に近寄る。
扉のむこうのティエリアを想像して…愛しい気持ちが込み上げる。