一葉

□安定剤
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こんなにも乱れた感情を今まで感じた事がない。

どうして、彼に関する事に対してこうも感情が乱れるのか。

ただ、彼が他のマイスターと話をしていただけだ。

そう、ただ『仲良く』話していた。

ただ、それだけ。

なのにどうしてこうも俺の安定感は失われるんだ?

「ティエリア!」

呼ばれて…嬉しくて振り返る。

しかし、表情は崩さない。

「今度の買い出しさ、特に用事あるか?」

心臓が五月蝿いくらいで、彼の綺麗な声が聞こえなくなりそうだ。

「ありません、補給が終わり次第帰る予定です。地上は嫌いなので」

彼が関わってくれるのが…何故嬉しいのだろう。

「お茶飲むくらい時間あるだろ?
お前の好きな紅茶の美味しい店が近くにあるらしいんだ。ちょっと寄っていこうぜ」

「…貴方は…」

ふぅ、とため息をついてから

「…リニアを待つ時間なら、問題ない」

そういうと彼はその人の良さそうな顔をくしゃくしゃにして笑う。

「そうか、じゃ、楽しみだな」

ああ、僕はこの人が好きだ。







「ん、これでリストの分は終わりだな」

「荷物は全てリニアに載せてもらうよう手配した」

「サンキュー、ティエリア」

ロックオンは端末のリストを閉じると、あろうことか僕の手を握り、歩き出す。

「ロ…ロックオン!何を…っ!」

「ん?迷子にならないように」

子供のように笑い、スタスタと先を行く。

混雑しているショッピングモール内、道行く人がじろじろ見てる、変だ、変なんだこんなの。







ティエリアと二人、予定の買い出しを終えた。
リストを確認しながら話していると、買い物の最初からチラチラとティエリアを見て、つけている奴がいる。

一人になるのを見計らい声を掛けようという魂胆みえみえの二人組。

確かにコイツはむちゃくちゃ美人だからな。口さえ開かなければ…。

通りすがる男も女も、大概が見とれて振り返る。
それぐらい整った容姿。
本人は無頓着だが…

何となくモヤモヤしたものを感じ、端末を閉じてティエリアの手を握り引っ張って歩く。
ばーか、お前らなんかに見せるのももったいない。
コイツは俺の大事なお姫様なんだよ。

そいつらに見せつけるように、ティエリアの抗議に笑って答えて歩く。

顔を赤くして狼狽えた可愛いお姫様。

お前が準備できるまで、俺、待ってられるか心配になってきたよ…。

他の奴にとられやしないか心配でしかたない。

早く全部俺のモノにしたい。
そんな汚い欲望を持ってるなんて…お前には解らないんだろうな。







全く!このロックオン・ストラトスという男は!

結局紅茶専門店の扉を入る前まで、手を引かれたままだった。

ああ、緊張して凄く汗をかいている…手が…手が。

「あ、済まん、俺体温高いからなぁ。気持ち悪かったか?」

ぱっと手が離れ、手の平がヒヤッとする。

そして…残念なような寂しいような感情。

「いや、問題ない」

こんな時、どんな顔をすればいいんだろう。
僕はまだまだヴェーダから学ばなければいけないという事か。




「うわ…種類がありすぎて選べねぇ…」

メニューを見たロックオンの第一声だ。

フレーバーティーが有名なこの店は品揃えの良さもウリの一つだ。

「確かに…」

とはいえ僕の飲むのは大概決まっている。

注文後、運ばれてきた紅茶とスコーンとマドレーヌを楽しむ。

「人にいれてもらう紅茶って美味いな」

「そうですね…、こうやってお茶を楽しむ時間は…普段ないから」

「なぁ、ティエリア」

「なんです?」

ロックオンはスコーンにジャムをつけながら

「その…しゃべり方なんとかならないか?」

と言ってきた。

何がまずいというのか。

「何か問題でも?」

「いや、その…、お互い…好きなんだよな?そのわりに他人行儀というか…なんていうか…」

呆れた顔をしていると、彼はばつが悪そうに続けた。

「俺が何か寂しいんだよ」

びっくりした、今なんて?

「二人の時くらいさ、もうちょいリラックスしてくれると嬉しいな〜って思ってさ」

「私は充分リラックスしているつもりだが?」

彼は苦虫を噛み潰したような顔をして笑う。
ひきつってるのは気のせいか?

「なら、まぁいいか」

残念そうなロックオンを見て、何故か…ソワソワするような感覚。

ソワソワというか、落ち着かない。

なんだ?

そして…思いもよらず言ってしまった。
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