一葉

□はじめての
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トレミーの女性達から男性陣は、皆明らかに義理と思われるものから、微妙なものまでそれぞれに貰った。

スメラギ・李・ノリエガからは高級感あふれる、中身があんなものとは思えない箱。

そしてクリスティナ・シエラとフェルト・グレイスからは手作りのもの。

二人がトレミー内にチョコの匂いを充満させていたのはこのせいだ。

バレンタインなどという、アジアの小国のつまらない慣わし。

ロックオンがそんな話を食事時にしていたことから、クリスティナ・シエラとフェルト・グレイスがチョコレートを作ると言い出したのだ。

全く、あの人は本当にどうでもいいことばかりよく知っていて…。

ちらり、とテーブルに置かれたその箱達を見る。

そういえば、スメラギ・李・ノリエガがくれたこの箱を見て、ロックオンは意外と喜んでいたな。

興味が湧いてきたので手にとって眺める。

そしてカサカサと丁寧に包みを開けると、一つ一つ、綺麗な色の銀紙に包まれたチョコレートが入っていた。

宇宙の星みたいだ。

食べてみるのも悪くないかも知れない。
なんとなくそう思った。






ロックオンはティエリアの自室前にいた。

「ティエリア?おーい」

いくらコールしても返事がない。

おかしいな、展望室にでも行ってるのか?
不思議に思いながらOPENボタンを押してみる。

ロックがかかっていると思ったらなんなく開いた。

無用心だなぁ、と思いながら

「ティエリア?入るぞ?」

声をかけて入って驚いた。

ティエリアが床に倒れていたのだ。

「ちょっ…お前どうしたんだ!」

すぐに駆け寄り、ティエリアを抱き起こす。

うわー、相変わらず軽い。
ありえないけどコイツの骨って中、空洞なんじゃないか?
もうちょっと食わせないといけないなぁ。

そんな事を考えながらティエリアに声をかけ、観察する。

顔が赤い、ちょっと熱いか?
オーバーワークかもしれないな。

いつも限界を軽く超えてやりすぎるティエリアなら考えられることだ。

しかし、そんな苦しそうでもない。

「…んっ…、ろっくおんだぁ…」

ふと目覚めてふにゃぁと笑い、俺の首に抱きつく。

何事だ、どうしたんだ、都合のいい夢みたいな展開にどうしたらいいもんか固まっていた。

「ろっくおんが嬉しそうだったからぁ、宇宙の星みたいだったからぁ、なんか楽しくなって」

大丈夫か?コイツ?

俺に抱きついて、耳元でふにゃふにゃの声で楽しそうにしゃべっている。

いつもより体温が高く、暖かいティエリアは子供みたいだ。

「具合が悪いわけじゃないんだな、まぁ、ならいいんだが…」

腑に落ちないが、様子が変なのはともかく身体の不調が原因で倒れていたわけではないみたいだ。

「ぅん…ろっくおん…」

語尾にハートがつきそうなほど甘くて可愛い声で首筋に顔をうずめるティエリア。

やめてくれよ、本当に下半身直撃だから。

そしてどうしたもんかと、ティエリアから目を離し部屋を見ると…ミス・スメラギから貰ったチョコの箱。

ほとんど空になってる。

ああ、こんなことならおとなしく部屋にいれば良かったかな。




ほんの数十分前。



今日は訪ねて来ないんだな。

ロックオンは珍しく、いつもの時間一人でいることにそわそわする。

本当に欲しい人からは貰えなかったが、ミス・スメラギは以前言った事を覚えていてくれていたようだ。

二人で飲んでる時、チョコレートの話になり、俺はあるショコラブティックの「アイリッシュコーヒー」というボンボンショコラが好きだと他愛も無く話したことがある。

それは冬季限定で販売されるもので、故郷の味を思い出すチョコレートなのだ。

まぁ、今回ミス・スメラギはそのショコラと洋酒ボンボンの詰め合わせをくれたわけだ。

彼女らしい選択だ。

話した俺ですら忘れていた事を、こうやってさりげなく覚えていて、わざわざ取り寄せてくれた彼女の細やかさが嬉しい。

その辺りうちのお姫様も学んで欲しいなぁと思っていたら、なんだか無性に会いたくなった。

「ティエリアコナイ!ティエリアコナイ!」

ハロもそう言って飛び回っている。

たまには俺があいつの部屋に行くのもいいか。

ロックオンはハロを待機モードにして部屋を出た。
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