二葉
□アナタの香り
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椅子の背凭れに掛けられたタオルを何気なく手にとってみた。
ロックオンがさっきシャワーを浴びた時に使っていたものだろう。
ロックオンが使っていた、というだけで組織の物品であるただのタオルがとてつもなく大切なものに思えるから不思議なものだ。
かなり乾燥したものの、まだ若干湿っているそれを顔に近づけてみる。
ロックオンの香りがする。
彼はあまり拘る人ではないので、酒保にあるシャンプーを使う。
だから僕と同じものだ。
なのに、彼が使うと…まるで違う香りになる。
僕はこの香りが好きだ、安心する。
タオルに顔を埋めて深呼吸をする。
そのまま、ソファーに座ったまま横に倒れ込む。
何か幸せだ。
アナタが側に居るみたいだ。
トロトロと心地よさが僕を包む。
ここは安全な、安心できる場所。
アナタがいる場所。
すーすーと幸せそうな寝息をたてるティエリアを発見した。
俺の部屋のソファーで猫のように丸くなっている。
手にはタオルをしっかりと握って、まるでそれがないと眠れない子供のようだ。
じっと見ていると面白い。
時々タオルに顔を押し付けてクンクン嗅いでは満足そうに笑い、また寝息をたてる。
多分これ、俺が使って、その椅子の背凭れに掛けて置いたヤツだろうなぁ。
本当ティエリアは、臭いフェチだよな。
よく俺の首筋あたりに顔埋めてくんくんしてるし。
まぁ、俺限定だからそんな悪い気もしないけど。
ちょっとイタズラ心が湧いて、そのタオルをそっと引き抜こうと試みた。
くっ…とゆっくりタオルを引くと、ティエリアが眉間にシワを寄せる。
「ん…」
起こしたかな?と暫く様子をみるが、寝息が聞こえるのでほっとする。
しっかりとタオルを掴んでいるようで結局は引き抜けなかった。
何がそんなにいいのかねぇ…、ロックオンは苦笑しながらティエリアを見つめる。
タオル自体は確かにそこそこ質がいいので、肌触りはいい。
ランドリーでまとめて洗いにだすから、これも特別違いがあるわけでもない。
シャンプーなども拘りがないので備え付けの…ティエリアと同じものを使っている。
何がいいのか実はさっぱりわからない。
酷く鼻が悪いわけではないが、とてもよい訳ではないせいか。
ティエリアは非常に鼻がいい。
そのせいなんだろう。
寝顔をじっと見ていたら、ティエリアが目をさました。
ぼんやりと、まだ瞼が重いのかその紅い瞳は開ききっていない。
やっと焦点が合い、視線が合った途端ティエリアは慌てて起き上がった。
「ろ…ロックオン!いつから…?」
「少し前から。よく寝てたな」
そして勢い良く起き上がったので、タオルがポロリとティエリアのソファーについている手の上に落ちる。
それに気づいてティエリアは真っ赤な顔をする。
「こ…これは…っ、ただ…っ…!」
「ただ、何?」
ロックオンは楽しそうにニヤニヤ笑っている。
どうせバレてるのに必死に取り繕うティエリアなんて滅多にお目にかかれない。
しっかり堪能しておかないと。
「俺の匂いで安心した?」
「……っ!」
今度は真っ青になるティエリア。
知られたくなかった性癖を知られたせいだろう。
バレてないと思ってたの、お前だけだよ。
本当に可愛いなぁ。
「俺の匂い、好きなんだろ?よく俺が使ったバスタオルとか使うもんな」
実はこんな事は一度や二度じゃない。
ロックオンがシャワーを浴びた後、掛けておいて乾いたバスタオルを、ティエリアが使っているのを見た。
ティエリアが絶望した顔をしている。
「…ぼ…僕は…」
何とか事態を収拾させたくて言葉を紡ぐが続かないティエリア。
「変態だな?ティエリア?」
ロックオンは楽しそうに顔色の変わるティエリアを見て、嗜虐心をくすぐられる。
「違うっ!」
「じゃフェチか?」
「誰でもいいわけじゃない!」