短編
□彼女と詐欺師と私の気持ちと、
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彼女と詐欺師と私の気持ちと、
私とアイツと…side story
私の好きな人は、学校でとっても人気があります
彼はテニス部に入っています
彼は詐欺師と呼ばれています
私は人気者な彼を遠くから見ることしか出来ません
そんな彼には好きな人がいます
その人は私なんかより全然可愛くて、綺麗で、絶対かなわないって思いました
そんな私は今日も彼を遠くから見ています
コート近くのフェンスまで応援に行くのは勇気が入り、なかなか出来なくて、今もまだこんな所からしか見れません
でも私はそれで良いと思っています
遠くからでも彼のことを見ていられるなら…
「ねぇ!大ニュース大ニュース!!
仁王君が−−…」
彼女の話を聞いた私は、仁王君を可哀想と思う反面、良かったと安心している自分がいることに気づいた
何て浅ましく、穢らわしい自分…
こんな自分がいたことに腹が立った
私はいても経ってもいられなくて走り出した
どこに向かうわけでも無く、ただ足が勝手に動くから、それにしたがって走っただけだった
気づけば階段を登り屋上に来ていた
「はぁ…はぁ……はぁ…」
肩で息をしている私の耳に誰かの小さな笑い声が聞こえた
誰かと頭で考えているが、私はこの笑い方をする人を知っていた
だって…だって……
私はいつも見ていたから…
あなたを…
仁王 雅治を……
「お前さん、そんなに急いでどうしたんじゃ?」
質問されていると頭では分かったが、今まで見ている事しか出来なかった私が彼に話しかけられていると思うと、上手く言葉が出なかった
私はきっと卒業するまで…
卒業しても彼には話しかけることも、話しかけられる事も無いのだと勝手に決めつけ、それで良いと思っていた
それが…
今目の前で、絶対に有り得ないと思っていた事が起きてる
これは夢だとしか思えない
奇跡が起きた…
神様は本当にいるのだと思った
普段だったらそんな事思わないのに
私にとってはそれ程特別な事だった
「あっええええっと…!
ととととっ特に意味は無かったんだけど、何かははは走り出したいききき気分だったんだよねっっっ!」
精一杯返した答えは意味不明の回答で、やってしまった…と思い下を向いた私の耳にはさっき以上に笑っている彼の声が聞こえた
仁「慌てる事無いぜよ」
笑った後に言った言葉がコレだった…
詐欺師と呼ばれる彼からは想像つかない程優しい声…
そして顔…
前の彼なら絶対にありえない事…
きっと彼女のそばにいたから、こんなに変わったのだと思う
彼を変えた彼女に汚い想いを向けながら、どうして私じゃ無かったのだろうと考えていた
「あっ、の…
仁王君は…その‥
会長の事……とか…
…もう諦めた……の…?」
私は勇気を振り絞ってみんなが気になっているだろう事を聞いてみた
彼の心の傷に塩をふってる気分だったけど…
仁「そうじゃ…な…
諦めたんかな…?
跡部もアイツの事、大事にしてくれると思っとるし…
自分の手で幸せに出来なかったのは少し悲しいが、アイツがそれで幸せなら俺は最初から潔く身を引くつもりだったぜよ」
彼女の事を話している仁王君はとても優しい顔で…
でも少し悲しそうで…
見ているこっちが悲しくなるようだった
『私なら…
私なら、絶対に諦めない!
相手を自分のものにしてみせる!』
って思ってた
一番のライバルである彼女が消えて、勝負はこれからって思ってたのに…
彼の悲しい顔が…
優しそうな顔が…
全てが彼女を好きって物語っていて…
私にはまだ、彼を幸せにすることは出来ない
彼はまだ彼女の事が忘れられていない
たから…
「仁王君は仁王君で頑張れば良いと思うよ!
諦めるのも1つの手だけど、それが全てじゃない
それが正解じゃない
だから…
だからね‥
いろいろやってみよ?
やらないで後悔するより、やって後悔したほうが気持ちもスッキリするでしょ?
仁王君が一番だと思った事をやってみれば良いよ!ねっ?」
だから私も…
「私も頑張ってみるよ!
だって私も諦められないから
だから…
だから、覚悟しといてね!
がんがんアタックしてくから!」
私は彼の返事を聞かずに、屋上から飛び出す
最後の階段を3段上から飛ぶ
ダンッと言う音がした
「打倒仁王雅治!」