月なきみそらの剣士

□誓いの傷
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『私も、ですか?』



バルテルス家の方々は
本当に大切に扱って貰ってはいたが
何もここまでされるのは流石に身がひけた。



「これはマティアス様の要望でございます。
あのマティアス様が名無し様には本当に
心をお許しになっているのですわね」



そう言いながら
ニコニコと嬉しそうに笑うメイドさんに
手渡されたのは大きな荷物と勉強道具。



『で、ですが。
私は殿下の護衛で・・・』



「だからですわ。
マティアス様の護衛なら学園生活にも常に
傍でお守りするのが仕事でございましょう」



た、たしかに・・・。
ごもっともな事は言われているけども。




私が通えと言われているのは
ザルディーネ王立学園。
世界中の王族や財閥のご子息が通うような
超がつくほどエリート学校。

そんなところに平民・・・いや
それ以下かもしれない私が入学するなんて
肩身が狭いにも程があるのです!


「肩身が狭いという顔をしておりますわね。
無理もございませんが、安心なさって。
名無し様と同時期にハイドリッヒ家の
アルフレート殿下もご入学なさるそうです。
名無し様はお顔見知りでございましょう?」



アルフレート。




メイドさんは確かにそう言った。



『本当、ですか?』


「はい。
マティアス様がおっしゃっておりましたわ」



アルフレートには会いたかった。
あの日のことを謝りたかったんだ。




もちろん
嫌われたかも、とか
私を恐ろしいというかもしれない、とか
不安な要素の方がたくさんあったけど
それでももう一度だけ、彼に会えるのならと
私はマティアスにエサで釣られたように
学園への入学に承諾したのだ。


後から聞いた話だけど


ベルントはすごく反対したそうだ。
でもまぁ
正室家の長男とその家族の推しには勝てず
私はすぐに学園への入学が認められた。




























*













入学初日。



私はさっそくアルフレートを捜した。
すごく、すごく捜して
放課後になってやっと見つけた。





『アルフレート!』





声を掛けると
すごく驚いた顔をして振り向いた。





「・・・・・・・名無し?」



そりゃ驚くよね。
私も驚いているもの。




アルフレートは驚いた顔を貼り付けたまま
その場で固まってしまっていて



私はある不安を思い出す。




やっぱり、私が恐ろしくて
会いたくなかったんじゃないか。



余計な事が次々に浮かんで言葉が
喉に引っかかってうまく出せない。



反応が怖い。



私はいつからこんなに臆病になったのか
アルフレートの体が動き思わず顔を伏せる。

一歩


また一歩と近づく気配に
肩を震わせ身構えた。



殴られる・・・・・・・・と、本気で思ったからだ。




二人の距離がほとんど認識されなくなった頃
私には痛い感覚や
酷い罵声に襲われはしなかった。


与えられたのは
温かくて優しい抱擁。



「会いたかった・・・。
会って、ずっと謝りたかった」



酷く久しぶりに感じた彼の匂いは
私の涙腺を弱くする効果があるみたいで
私は危なく涙をこぼしそうになった。


だって


謝ろうとしていたのは私の方なのに。



『謝らなきゃいけないのは私の方です。
ずっとお傍に居ると誓ったのに。
・・・あの、私のこと嫌いになられましたか?』



「嫌いになんてなるわけがないだろう。
どうであれ、お前に命を救われたのだから。
だが俺も、お前に負けないくらい強くなる。
今度は俺がお前を守る」



先程まで
自分は何を恐れていたのだろう。
もう思い出せないくらい幸せだった。




私が今、貴方の傍にいることを
貴方は心から喜んでくれたから。











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