月なきみそらの剣士

□かごのそと
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「やだよっ、嘘でしょ・・・?
名無しっ、名無しっ」


「この姿で騒ぐな、エリク。
まだ息はある。
とにかく、
名無しを船の端まで運ぶぞ」


「了解した」


とはいっても
エリクとルシアの体では期待できない。
俺とアルフレートで衣類を引っ張り運ぶが
意識を失った人間の体は女でも重い。



「運んだって、それからどうするんだよ!
このまま船にいたって焼かれちまうだろ!
だからって海に飛び込んだって
意識ない名無しは・・・・」


ルシアの不安は痛いほど理解している。
大したことではないはずなのに
名無しを運ぶのは容易でなかった。
気付けば、炎は目前まで迫り
俺達をのみ込もうとしている。


時間がない。
そして
選べる道もひとつしかない。



「助かるには
飛び込むしかないだろう。
俺達も名無しも」



誰もが息を飲む。



この姿で泳げる自信は誰にもない。
それ以上に
この姿で名無しを守れる自信が無い事を
誰もが悔やんだ。


「いいか、皆。
飛び込んだらまず、掴まれそうなものを探せ。
無理に泳ごうとするな」



最初に飛び込んだのは
意外にもルシアだった。



「あーあーわかったよ!
此処にいても何も始まらねぇんだろ!?
だったら飛び込んでやるよ!!
待ってな、先に飛び込んで
名無しが寄りかかれそうなもの見つけてくる」



「僕も探すよ!
名無し、待ってて!」



苦労しそうだったエリクも
迷い無く果敢に飛び込んだ。



「マティアス、名無しを
俺の背に乗せてくれ。
彼女を預けられそうなものが見つかるまで
俺が彼女を預かる」


俺はアルフレートの背に
名無しを預けた。



彼女の息は消え入りそうなほど弱々しく
俺は思わず目を伏せてしまった。


「マティアス」


俺達にとって最悪の結果を
アルフレートも感じたのかもしれない。



「必ず名無しを助けよう」


あえて
彼がそんな事を言葉にするということは。



「当たり前だ」




俺達は同時に海へ飛び込んだ。



アルフレートの背にいる大切な存在を
失わぬために
俺は俺のできる事を何でもするつもりだ。





「皆、耐えろ。
必ず俺達は助かると信じるんだ」



もし



この状況を
上から見ている存在があるのならば



頼む



皆を助けてくれ。





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