BASARA短編

□春ですね
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今この瞬間まで何時間こうしていただろうか。


机を挟んで目の前の書簡とにらむ畔戸の姿ばかりを見ていた。

瞬きも惜しいくらい畔戸殿の姿を、秒間隔で記憶に焼き付けていた最中でござるから、
少しの異変にも気がついたのだ。




そう、俺は見ているだけ。



俺は独眼竜殿とは違い、畔戸殿の邪魔はしておらぬ!
それ故、畔戸殿は俺を追い出さぬのだ!


否、もしかすると


畔戸殿は俺が目の前に居ることで安心して仕事ができているのではござらぬか!?


ぅおおおおっ!!
慢心ではない!!
これは、確信!!


畔戸殿が望もうものならば
この幸村、一生畔戸殿の傍らに・・・!!




畔戸の異変を忘れ、
自分と会話している幸村。




そう言えば、幸村
いつから此処にいたんだろう?(酷)




無視するのも気まずいので
畔戸は自分の腕を黙って幸村に差し出した。


「ぁ・・・畔戸、殿?」


視線をおとすと
腕には小さな腫れがあった。



「これは・・・」



『虫に、刺されたみたい』


次に視線を戻すと
痒さを堪え、眼にうっすら涙を溜めた畔戸殿の眼と出会った。


目が合った途端に硬直する幸村。


この姿は・・・まるで・・・


まるで・・・





「ッな、なんとっ!虫に!?
それはいけませぬ!?」


い、いかん。いかん。
俺としたことが!
平常を保つのだ・・・俺!



『(痒くて)もー我慢できないよー』


↑この発言。
畔戸は幸村にとっては重要なところを省いてしまっている。





我慢・・・できない・・・でござるか・・・。




何を思ったか、幸村は畔戸の腕をいきなり掴み、夢中で引き寄せた。


『わ、ちょっと!?幸村??』






差し出した腕が掴まれるという事態は予想外だった。
慌てて腕を引っこめようとするが、幸村に引っ張られ逆に机に突っ伏してしまった。



私が痛いと言っても返事の返さない幸村の顔は真剣で












虫に刺されたくらい。
そんなに真剣に
心配してくれなくても・・・











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