最近、視界をウロチョロするやつがいる。
何をしていても視界をよぎって煩く感じられてしょうがない。



『ボス!書類整理終わりましたよ!』



「うるせぇ。騒ぐなドカス」



…別に、その存在自体が目障りっつーわけじゃない。
あのカス鮫なんかより煩くねぇ、気が利くパシリだ。
何が邪魔かっつーと…



「オイ」



『なんですか?あ、お酒きれてますね、出しましょうか?』



「あぁ。…じゃねぇよカス。テメェ、髪切れ」



『…はい?』



何がうっとうしいって、その長い髪が揺れる度に視界にまとわりつくように感じられるのが何より邪魔だ。
切らせりゃ邪魔に感じることもなくなるだろう。



「髪切れっつったんだ。視界に入って邪魔なんだよ」



『えぇー…髪、ですか…?』



「オレの命令が聞けねぇのか」



『う…わかりました、切ります!だけど私短髪似合わないんで笑わないでくださいよ!』



どうでもいい。その髪が視界に入る時のうっとうしささえ消えれば。
そして次の日、そいつは肩より下まであった髪を、うなじが見えるところまでザックリ切ってきた。



「フン、対して変わってねぇじゃねえか」



『そーゆーこと言わないでください。髪は女の命なんですから』



余計な一言でそいつは煩く騒ぎ始めたが、とりあえず無視する。
その時オレは、視界をうろつく物が消えたという解放感を覚えていた。
それから一週間。
何故か苛立ちがつのる。何故だと自問自答してみれば、答えは明快だった。
視界をよぎる物がうっとうしい。
もうまとわりつくはずのない髪が、ことあるごとに視界をよぎる。
錯覚だとわかっていても、目で追ってしまうのがいまいましい。



「クソッ…」



最終的に、オレの目がたどり着くのはあいつのところだ。
それが余計気にくわない。



『ボス、最近不機嫌ですね。どうしましたか?』



どうしたもこうしたもない。とにかく視界をよぎる髪の残像を消したくて、そいつを見なけりゃなんねぇのが腹立たしいのだ。



『?ボスー?黙りこんじゃってどうしたんですかー?』



そうして気づけば、



「テメェ、また髪伸ばせ」



つい一週間前に命令したのとは逆の言葉を発していた。



『えー!?また伸ばさせるならなんで切らせたんですか!』



煩い声に、空になった酒瓶を投げつける。…チッ、避けやがった。



『ボスが切れって言ったからわざわざ切ったんですよ!』



「だからまた伸ばせっつってんだろ」



『またあの長さになるまでどれだけかかると思ってるんですか!』



「知らねぇよ。どうでもいい」



『どうでもいいってなんですかー!!』



ああ、また余計な一言だったらしい。
ギャンギャン噛みついてくる様子は吠える犬のようで笑いを誘うが、やかましさは拭えない。



「うるせぇな…髪伸ばせばまた給料増やしてやる」



静かにさせようと思って言った言葉は効を奏したように思えたが、ふと見遣れば不満そうな雰囲気がありありと出ている。



「なんだ、まだ何かあんのか」



『給料アップなんかじゃ納得できませんー』



膨れっ面が不満をわかりやすく示していて、仕方なくオレはため息をついた。



「ハァ…じゃあどうしろっつーんだカス」



そう言えば、そいつはニンマリと形容するのが一番ふさわしい笑みを浮かべた。



『今度髪を伸ばしたら、ずっと傍にいさせてください』



…………は?



『髪が視界に入ってうっとうしかったんですよね?なら私ごと視界にいれちゃって、邪魔だと思えないようにしちゃえば良いじゃないですか!』



…どんな理屈だ?
だが、悪くねぇかもしれねぇと思っている自分がいる。








犬みたいにじゃれて
(じゃれついてくるテメェが傍にいることが)(いつの間にか)(当たり前になっていた)







企画サイト様よりいただきました。
Thanks『千年の命よりも

ザンザスギャグ甘?
終わらせ方が微妙だ…
企画参加させていただきありがとうございました!

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