―――イタリアの街に雨が降る。
そぼふる雨音の他の音の一切を排除して。
寝たきりの私の耳に、その音だけが響き続ける。
一番嫌いで、一番求めている音が、響く。



『早く、降り止んで―――』



望む。願う。
雨の止む時を。
―――貴方の訪れを、ずっと。



******



その男は、私の親戚だった。



「ゔお゙ぉぉい!まだ寝込んでんのかぁ!?」



必ず大きな声と共に訪ねて来て。



「ずっと寝てるだけじゃあ治るもんも治んねぇぞぉ!」



病のために起き上がれない私を車椅子で連れだして。



「見てみろぉ!今日はこんなに良い天気だぁ!」



外の世界を見せてくれる、優しい人。
必ず雨の前の日に訪れる、人。



『ねぇ、どうしていつも雨の前の日に来るの?』



「あ゙ぁ゙?…ただそう決めてるだけだぁ」



一度だけ聞いてみたけれど、彼が困ったように笑ったから、もう聞かない、と私も決めた。



『また来てね。…絶対、に』



「絶対だぁ!また次の雨の前には来るからなぁ!」



―――必ず、そう約束して去って行った。
だからいつも、雨の日を待っていた。
でも、一度。一度だけ、彼が来なかった日があった。
雨降る空を見上げながら、彼が来ないことに私は呆然としていた。
―――約束、したのに―――
…そうして私が知ったのは、彼と共にいられる時が、本当は、雪の様に儚いものだったということ。



「ゔお゙ぉぉ、い…この前はすまなかったなぁ…」



次の雨の前の日に、彼は困ったような顔をして訪れた。



「我が侭上司がいきなりジャッポーネに行って来いとか言い出しやがってなぁ…」



…そんな悲しそうな顔をされたら、怒れなかった。
ただ、行き場のない気持ちが、溢れ出したような感覚と共に、頬を滴が伝った。



「な、ど、どうしたぁ!?」



慌てた彼の声に、私は彼の顔が見れなくて、ただ声を押し殺しながら泣いた。
そうしている間に彼からかけられる言葉も、とても優しいもので。どうしても涙は止まらなかった。



―――どれほど経っただろう、気づけば涙は止まっていて。顔を上げれば彼が、そっと涙を拭ってくれた。


「…泣くなぁ。お前が泣くと、困るんだぁ」



その優しすぎる声に、心のなかで何かが決壊したかのように、再び涙が溢れ出した。



『…じゃあ、じゃあ今度、今度はっ、約束、ぜっ、絶対、ま、守っ、て!』



必死に絞りだした声は、あまりに小さくて、絶対彼に届かないだろうと思った。
でも。



「あ゙ぁ、今度こそ、だぁ!」



絶対を思わせてくれる、力強い声。それと共に。



「だから、いい加減泣き止めぇ!」



涙の伝う頬への暖かいキス。
…驚きで涙も止まった。



「今度こそ、約束だぁ!」







雨より早く 雪より強く
(雨の前の日の訪れは)(雪解けのように優しく暖かい)(約束になって)







企画サイト様より頂きました。
Thanks『子守唄を貴方に

スクアーロとの切甘?切ないかどうかは微妙デスね。(泣)
最後のほう、ひたすらイチャイチャしてるだけだし…
しかも、実は一度も名前出してなかったり。
…口調だけで解るってスバラシイ(←オイ)
企画参加させていただき、ありがとうございました!



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