一周年フリリク

□Time!
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〜ver.美夜乃〜

冷たい雨がしとどに窓を濡らす暗い空模様のその日、その空と同じく山本父子の心も雨模様だった。


「美夜ー、泣くなー…」


膝の上で泣きじゃくる美夜乃を抱えて山本は至極情けない表情をしていた。
美夜乃をあやしながら頭に浮かぶのは無表情に近いが確かに困ったような表情の妻の顔。


「うっ、うぇっなんでっ、おか、おかーさん、いつもっ、おしごといっちゃうの…?おかーさん、み、みやのこときらい…?」


「そんなわけねーよ。お母さんは美夜が大事だから仕事頑張ってるんだって」


「でも…っ」


たんじょうびのやくそくだってわすれちゃったんだよ…消えてしまいそうなか細い声が胸を衝く。
今さらのように美夜ができたとわかったときの妻の声が耳に木霊した。

【できた以上堕ろしはしない。でも、覚えておきなさい。私は反対したわ。絶対何度も私はこの子を泣かすことになるってわかるから。だから】

それでも、目を開ければ泣き続ける愛しい娘の顔があって。妻も絶対この子を自分以上に愛していると自信を持って断言できる。


「なあ美夜、お母さんはな美夜が大切で、大好きなのな。だから、触れるのだって怖がってるし、美夜が泣くたびにすごく困ってるんだよ」


「それっ、て、みやがきらいってこと…?」


「違う。感情表現が下手で、不器用で、過ぎるくらい生真面目で、いつだって一生懸命で…誰より美夜が大切で、側にいられない分、いつも美夜を想ってる」


「…ならなんで」


おかーさんはいつもそばにいてくれないの?そう言うだろう美夜の口に人差し指を当てその耳に口を寄せて過去、妻が言った言葉を呟けば、美夜は一瞬目をみはって小さく笑いだした。


「なら、みやがまんする」


「よーし、ほら空達が来てるから、遊びにいけばいいのな」


「うんっ」


満面に笑みを乗せ、走り出した娘を笑顔で見送り、姿が見えなくなったところでため息を吐いた。


「はぁ─…美夜は納得してくれたけど…これを話したことがバレたら俺の命の危機なのな…」


振り向き、歩き出しかけ…皮一枚の位置にある剣尖に足を止めた。


「へぇ?何を話したのかぜひ知りたいわね」


たらり、冷や汗が頬を伝った。


「か、帰って…」


「ええまあ、いい加減美夜を泣き止ませるには少しは時間をつくってあげようかと思ったんだけど…無駄だったかしら?」


「いやいやいや無駄じゃない無駄じゃない!!絶対美夜喜ぶって!」


「そう。で?何を言ったのかしら?」


話を逸らし損ねて山本は八十六計逃げるにしかずを決め込んだ。
その後当然追いかけた妻との攻防によりボンゴレ本部を一部消しさって減給を食らったのは──まあ、当然の流れである。
だが、山本は別に後悔しなかった。

【お母さんはな、俺がお母さんの分まで美夜の傍にいて美夜を大事にしなかったら俺を殺して自分は仕事辞めて美夜の面倒見るって言ったんだ。だからお母さんは俺なんかよりよっぽど美夜を大事にしてて、美夜が泣き止んでくれなきゃそのうち俺を殺しちゃうんだろーな】

大事な妻と娘。その架け橋に少しでもなれたなら──と思いながらも今はとりあえず明確な命の危機から遠ざかろうと全力で駆けた。


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