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□初雪
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12月。
人肌が恋しくなるのは
寒いからだけじゃない。




【初雪】




朝から頭が痛い。
最近徹夜続きで寝ていないからだろうか。
でもあの人は1ヶ月ほぼ寝ていないときもあるくらいだ。
そう思うとこの柔な体が疎ましい。
隊長が不在の今、俺が倒れるわけにはいかない。
とは言ってもこのままだと倒れかねない。




「…仮眠でも取るか」




三席に1時間経ったら起こしに来るように伝え副官室を出た。
吹く風が冷たくてもう冬なんだと告げる。
この時期になるといくら死覇装だからと言ってもノースリーブはキツイ。
次から袖がきちんとついた死覇装を着てこようかと思ったときだった。




「よぉ、修兵」
「…阿近さん…!!」




いるはずのない、あの人。
会いたい会いたいと思ってもお互い仕事仕事で…




「本当に…?」
「あァ。今日早く帰れるだろ?」
「え…」
「俺今から非番なんだよ」




実験に一段落ついたんでな。
と不適に笑うこの人は本当に我儘だ。
俺の予定なんか気遣ってもくれなくて。
それなのに実験第一で。




「…みんなに言ってきますんで、先帰っててください。」
「いや、ここで待ってっから早く言ってこい」
「………。わかりました」




寒い中待っていてくれている。
そう思うだけで早足になる。
それもあの人にとっては計算のうちなのだろう。
仮にも九番隊を任されているというのに、俺は何をしているんだろう。
でも最近休みなかったし。
そんな言い訳が出てくあたりまだまだだと思う。




「あれっ、もう帰ってらしたんですか?」
「いや、その…」




言いにくいことこの上ない。
この忙しいときに。
しかも副隊長が私情で早退したいだなんて。
しどろもどろしていたら三席はわざとらしく大声を出した。





「!顔色が悪いですよ副隊長!!」
「え…」
「あー大変だー!!だから今日はおやすみになってください!」
「…お前」
「他の隊員にはちゃんと言っときますから。外で待たしてるんでしょう?」




別に公開してるわけじゃないが隠してもない俺達の関係。
気恥ずかしい思いをしながら気遣ってくれた三席に礼を言って扉を開ければ、そこには阿近さんがいた。
しかも、不機嫌丸出しの顔で。




「…阿近さん?」
「……………………。」
「おーぃ」




顔を除き込んでも無表情で見下ろしてくるだけ。
なんだかだんだん悲しくなってきて一人で歩き出す。
なんなんだよ、ホント。
俺は阿近さんのために恥ずかしい思いして早退してきたのに。
…折角の時間なのに、こんなんじゃ意味がない。




「おぃ」
「………。」
「おい修。」
「………………。」
「修兵!!」




さっきとはまるで逆に阿近さんを一切見ずに歩く。
グッと腕を捕まれて振り向けば眉間にシワがよっていて。
やりすぎたと思ったときには時すでに遅しというやつで。




「…覚悟しろよ」
「あこ、さ…」
「たっぷり可愛がってやるから」




耳元で囁かれれば立ってることなんてできなくて。
あぁ、今日もどうせ寝れないのだと覚悟した。
でも阿近さんが側に居てくれるだけで元気になれる。
だなんて思うあたりやっぱり俺は阿近さんにベタ惚れなんだと思う。




「あ、雪…」
「…あぁ」




それは今年初めての雪で。
地面に降りれば溶けてなくなってしまう儚さに胸がギュッとなる。
これを切ないと人は呼ぶのだろう。





「初雪を…阿近さんと見れて、良かった」
「………あぁ。」




この世界が白に染まるのはまだまだ先だけど。
その時もまた、

(なんで不機嫌だったんですか)(…すぐ出てこずに女と喋ってたろ)(阿近さん…////)





嫉妬されて喜ぶあたり、俺は心底阿近さんに惚れてる。




-END-




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