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□安心できる場所
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俺らの関係は、所詮もろいもので。
でもそれにしがみついていられるのは、
拳西さんの優しさが俺を包み込んでくれるから。




【安心できる場所】




今日俺は非番を利用して現世に来てる。
もちろん、拳西さんに会いに。




「拳西さーん!檜佐木です、いませんかー?」




なんだかよくわからない結界に守られた建物の前から叫んだ。
何度も来たから見えないとはいえどこらへんが勝手口かぐらいはわかってる。
結界が開いて中に入れば真子さんたちの中に拳西さんの姿が見当たらなかった。




「…あれ、拳西さんは?」
「あぁ、修兵来るゆーとったんやけどグーグー寝てるわ」
「…そうですか」




せっかく来たのに拳西さんに会えないのは悲しい。
というか寂しい。
どこの部屋で寝てるのか真子さんに聞いて行ってみることにした。
寝顔くらい、見たいし。
そう思いながら言われた部屋の戸を開けると拳西さんは床に大の字で転がっていた。




「あーぁ…いくら室内だからって風邪ひきますよーっ」




声をかけてもピクリともしない拳西さんに、蹴飛ばしたのか足元で丸まっている毛布をかけてやる。
そのまま滅多に見られない拳西さんの寝顔に見いる。
うわっ、拳西さん意外に睫毛長いし!
肌はちょっと焼けてカッコイイし…
長い時眺めていたらいきなり引き寄せられた。




「っ、うわっ!拳西さん!?」
「…るせー…静かに、しろ…」




ドキドキと心臓が煩い。
抱き締められることなんてたくさんあるはずなのに、なんだか今日は違う。
拳西さんが、俺の胸に顔を埋めてるんだ。




「修兵、心拍早いな」
「っ、だって拳西さんが!」
「俺が、なに?」




余裕の笑みで見上げてくるあたり、確信犯だ。
確信犯だとわかっているのにドキドキしっぱなしで…
やっぱり拳西さんには敵わない。




「もうちょい、寝かせろ」
「…非番、終わっちゃいますよ」
「一時間したら起こせ。」
「………」
「起きたら、たっぷり相手してやるから…な?」
「っ!」




ボソリと耳元で囁かれた言葉。
真っ赤になってしまったのは仕方ないと思う。




「本当に相手してもらう、から…」
「あぁ」




小さく笑われた気がしたが気のせいということにしておこう。
だってあと一時間で相手をしてもらえるんだから。




「修兵、しゅーへー」
「…んっ?」
「もう夕方やでー」
「っえ!?」




いつの間に寝てしまったのか。
びっくりして起き上がれば俺を抱き締めてた拳西さんはもういなくて。




「けっ、拳西さんは!?」
「あ?結構前に起きとるで」
「ぇえええっ!!」




慌てて居間へ行けば拳西さんは筋トレをしていて。




「拳西、さん…?」
「おぅ、起きたか」
「起きたか、じゃないですよっ!なんで起こしてくれなかったんですか!!」



涙目で拳西さんに詰め寄れば気持ち良さそうに寝てたから起こすに起こせなかったとシレッと言われた。
せっかくの非番なんだからまだ寝てろ。
そうも言われたがもう目は冴えてしまったし、やっぱり拳西さんと一緒にいたい。




「構ってくれる…って言ったじゃないですか」
「起きたの今だろ?」
「だから…」




なんだか悲しくなってきて俯けば、拳西さんは困ったようにため息をはいた。
煩わしいと思われただろうか。
拳西さんに嫌われたら、俺は…




「ったく…」
「けんせ、さ…」





顔を両手であげさせられた。
そこには困った顔の拳西さんがいて。




「最近、疲れてるだろ?」
「…そんなこと」
「隊長、副隊長を兼任してんだ。顔見てりゃわかる。」
「でも、俺は…!」
「だから、寝れるときに寝かせてやりたかった」
「けんせ、さん…」




思わず零れた涙を拳西さんが拭ってくれて。
その優しさに胸が傷んだ。
一緒にいたいのは、俺だけじゃないのに。
俺のことを考えていてくれた拳西さんを責めてしまった。
拳西さんが、悪いんじゃないのに…




「ごめ、なさ…」
「いや、俺こそ悪かった」
「拳西、さんは!悪く、ない…」




自分が情けなくて涙が止まらない。
次から次へとこぼれ落ちる涙を拳西さんは拭ってくれていて。
ギュッと抱きつけば拳西さんは優しく抱き締め返してくれた。




「今から相手してやるから」
「…うん」
「機嫌なおせ、な?」
「うん…!」




俺らの関係は、本当に脆い。
でも、それでも安心できるのは

(そろそろ離れろ、修兵)(………やだ)(やだって、なぁι)





このあと拳西さんに甘えたのは言うまでもない。




-END-




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