対局圏(迷人戦)

□砂里町暁稲荷余話 その二
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 土曜日の学校を終え、お昼ご飯も済ませていつもの遊び場である神社の境内へとやってきた、赤褐色の髪の少年はフイと顔を上げました。

「あれは……仔狐か」

 立派な彫り飾りの入った屋根から吊り下がる綱がフラフラと揺れ、その根本の大鈴の上に、先日神主さんの家で会った小さな銀狐の姿があります。

「おーガラーだァ!」

「違う、我愛羅だ」

 大人が手を伸ばしても全く届かない場所にいた仔狐は、ガランガランと鈴を鳴らして尻尾を振り立てます。

「そんな悪戯してたらバチが当たる……早く降りてこい」

 仔狐の真下まで来た我愛羅は両手で綱を押さえます。
 鈴の上から直接飛び降りようとしていた仔狐は少し考えた後、両前足で綱を抱えるようにしてスルスルストン、と我愛羅の腕の中に落ちてきました。

「ヘヘッ! 登んの大変だったけど降りるのはあっという間だぜ!」

 仔狐はそう言って、自分を受け止めた腕の中でふんぞり返ります。

「わざわざよじ登ったのか? 何の為に?」

 少々呆れ顔の我愛羅は、仔狐の耳や背中や尻尾に付いた煤を払いながら尋ねました。
 白っぽい毛並みは洗わなければ落ちそうにない程汚れてしまっています。

「んー、もっと上までいこうと思ったんだけどォ、アソコでつっかえてた」

「屋根の上にか?」

「そうそう、神主さん探してんだけど見付かんねーの」

 腕の中から見上げてくる顔には大きく『困った』と書いてあります。
 そんな仔狐を抱き抱えたまま我愛羅は首を傾げました。

「神主さんなら、もうそろそろ帰ってくる頃じゃないのか……入れ違いになってしまうぞ」

 仔狐を抱えたまま我愛羅は歩き出します。

 神社のすぐ裏にある雑木林の向こう側、行き先の家の庭先から車が出て行くのが木々の隙間から見えました。
 
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