対局圏(迷人戦)

□砂里町暁稲荷余話 その二
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 後ろ手に仔狐の襟首をひっ掴み、セーターの伸びるのにも構わず一気に抜き去ると鼻を突き合わせて叱り付けます。
 けれども仔狐は何故怒られるのか訳が分からず、目の前の少し赤くなっている鼻筋を足の先でちょいちょいと押し返しました。
 少し冷たくて柔らかい肉球の感触に、またしても怯んだ様子の手から逃れた仔狐は、再び神主さんの膝に飛び付きます。

「毛繕いすんのに昼も夜もあるのかってーの! アタマの毛、クロいのとおんなじ匂いがするからもっといじってたいのに!」

 そう喚く仔狐の言葉に神主さんは訳が分からない、といった表情で自分の髪を掻き上げました。

「頭の毛の黒いのというのは……ギンジの事か?」

「誰ソレ?」

「違うのか? では一体誰が俺と同じ匂いで、いや、そもそもお前は頭の黒い奴なら誰でも良かったというのか……」

 何やらブツブツと言いながら考え込み始めた神主さんは、ドカリと疲れたように縁台に腰を落とします。
 そしてその弾みで、置き放してあった雑誌が地面へと落ちてしまいました。
 扇形に広がったページがパラパラと二手に別れ、真ん中辺りを開いて止まります。
 そこには表紙とはまた違った人物達の写真が幾つもありました。
 
「あっ、魔法少女だァ」

 仔狐は誌面の見開き中段にズラリと並ぶ少女達を前足で指し示しました。
 慌てた様子でそれを拾い上げた神主さんは咄嗟に訂正を入れます。

「違うッただの歌手のグループだ!」

「エッ!? でもガーラのねーちゃんと見たてれびのヤツらはこんなカッコに化けて戦ってたぜ」

 恐らくは少女向けの番組で見たのであろう、変身ダンスを仔狐が真似てみせます。
 むく毛の輪郭が銀色にキラキラ光る姿に、思わず怒りも忘れて見入ってしまう神主さんです。

「おー何だかオレも魔法少女に変身できる気がしてきたァ!」

「何……だと……」

 浮かれた様子で縁台を跳ね回る仔狐の独り言にピクリと反応した神主さんは、先程拾い上げた雑誌をパラパラと捲ると胸の前に広げました。

「では試しにこれでやってみろ」

「よっしゃオレにまかせとけ! ってアレ? このニンゲン」

 ドン、と胸を叩いて請け負った仔狐ですが、目の前に差し出された人物の写真を見るなり口ごもります。
 どうかしたかと神主さんが声を掛けようとしたその時、仔狐の額の黒い丸ブチがまばゆい光を放ちました。
 
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