対局圏(迷人戦)
□過去拍手文
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【氷海】
幾日も続いた地吹雪が止み、突き抜けるような青空が広がる。
見渡す限りが雪に覆われてなだらかな曲線の中へと包み込まれ、生きる者の気配は微塵も感じられない。
この地ならば、自分が神へと捧げる最後の贄となれるだろうか。
儀式を行うため懐へと手を伸ばす。
カシャ、と首下から鎖の鳴る音が立ったが、甲か指かが触れた感覚さえ分からない。
それでもどうにか凍えた手に信仰の証を乗せて祈りを囁く。
乾いてひび割れた唇が端から裂け、小さく赤い氷の粒が金属の輪の上に散らばった。
思い浮かぶ限りの祈る言葉を神の御元へと送り、力尽きて仰けに倒れる。
じわじわと身体の端から凍り始め、どうにか閉じた目蓋越しに強い陽の光をただ感じていた。
どこか遠く、遠い場所から近付く足音が聞こえる気がする。
足場の悪さを事もなく、いつものと変わらない歩調で雪を踏む姿が思い浮かんだ。
凍った髪の雪枕の下、氷の海が軋むのをただ聴いている。
2007年冬〜2008年春まで使用していた物です。