対局圏(迷人戦)
□みどりむら
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《みどりむら》
ひたすら青い空の広がる荒れ野の果て、浮島の如くぽつりとそこに、緑広がる土地があった。
その地には一つの村があり、その先には更なる荒野があると言われ、また桃源悠水の地があるとも言われている。
しかしその村に住まう人々に尋ねる者があったとて、彼らは皆ただ一言、知らない、としか答えはしないだろう。
何故なら、その村の先へ行って帰ってきた者はただの一人も無かったからだ。
ある晴れた日、村に一人の旅人が辿り着く。
長旅に力尽き、村への入り口の小道に倒れていたところを見付けられ、村人達が薬医の元へと運び込んだ。
誰の目にも旅人には死期が迫っているのが見て取れる。
それでも人々は手を尽くし、幾晩か目の夜に旅人の瞼が僅かに開いた。
人を捜している。
長く続いた乾きに皹割れた唇を動かし、嗄れた声でようやくそれだけを言い、苦しげに身じろいだ。
まともに動かせず弱々しく開かれた掌に、何かを察した一人が千切れた銀鎖を握らせる。
その感触に安堵の息を漏らし、半ば閉じ掛けていた目が瞼に覆われてゆく。
必ず見付ける、そう呟いた唇は閉ざされること無く、敷布に取りのこされた手からは鎖が溢れ落ちた。
その場にいた人々が目を閉じ、掌を合わせる中、誰ともなく旅ゆく者へと言葉が贈られる。
道行き着く果て、そこが再会の地となりましょう。
夕なに眠り、また暁と共に歩む旅人の、今一夜の安らかなる夢を。
何時ぞの時代か知れぬ何処か、道逝きて膝折る者を迎え、その灯火の去るを看取る村がある。
2009/05/10