裏かどうかは微妙なところ

□都市廃城
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 【雨情・城址街】



 前日から降り続ける雨は時折小止みにはなるが、すぐまた勢いを取り戻して上がりそうにない。
 すり減った石畳に沿って出来た流れは、この街のほぼ中央を横切る水路へと注ぎ込み、泥色に濁った渦を巻いて塵芥もろとも運び去ってゆく。
 常ならば埃と塵煙、食物と廃棄物のごた混ぜになった臭いのする空気も、今日ばかりは幾分清浄なものに感じられた。

 かつては小国の王都であったこの街は、大戦の最中に半ば焼け落ち、今では城も廃され王位は空座になって久しい。
 近年漸く復興の兆しが見え始めたその矢先に、東の国境を接する雨隠れの内紛が起こり、無法地帯に等しいこの街にも多数の難民がなだれ込んだ。
 焼け残った旧市街と瓦礫を新たに積み上げ礎とした新市街、そして魔窟と化した廃城が幾層もの区域を織り成し、膨れ上がる住民を呑み込みこの地を“都市廃城”たらしめる。

 混沌を模したようなこの街でも、魔窟と呼ばれる城址一帯にはおよそ集め得る限りの悪党共が犇めき、日陰者の醜い勢力争いが日常茶飯事と化していた。
 今でこそ大小の組織が上っ面ばかりの縄張りを分け合ってはいるが、その線引が終わるまでは小競り合いが絶えず、知らずうちに姿を消した者の行方を気にする輩も殆どなかった。
 だが、そのような有様では外部との折衝は滞る。いつしか廃城の北側、子の門に面する後宮跡を不戦協定の地とし、各々の代理人達があらゆる悪事も諜略も引き受ける習いが組み上がっていった。


 飽きもせずに降り注ぐ雨の中、人の暮らしに温められた屋根から水蒸気が立ち上る。
 かつての華やぎを未だ残した後宮跡は、住む者供こそ違えどもその姿は美しく、それ故に物悲しかった。


2007/10/28
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