裏かどうかは微妙なところ

□『竜鱗の鎧』こぼれ話
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(以前の日記にあった、このシリーズの大元的なお話です)



  【妖精騎士の国】



 どんよりと垂れ籠める雲が月を隠し、夜更けの地上に闇を注ぐ。
 家々の窓から漏れる淡い明かりが、人気の無い夜道をほのかに照らしていた。

 既に殆どの店は閉まり、活気のあるところと言えば酒場ぐらいしかない。
 陽気な喧騒の漏れ聞こえる扉の前に、今また一つの人影が立ったが、しばらく中の様子を窺いそのまま立ち去って行く。
 その背中を店からの明かりが照らし出し、後ろに負うた長剣を夜に浮かび上がらせた。



 かつては開かれた土地、華やぎの都と称されたこの国は、建国の始祖、妖精と意思を通じることの出来た騎士達のいた頃の輝きを失って久しい。
 今では商家の力が王都を包み込み、堅牢な要塞であった城も、内に入ればきらびやかな宮殿へと様変わりしている。
 過去の記憶は吟遊詩人の歌に紡がれ、人々の憧れと想像を掻き立てて止まない。


 
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