文(伝奇物多し)

□肉杯を干す
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 今暫く前に放り出された格好のまま、へたり込んだ相手の腕が不意に強ばり、その膝をぎしりと掴んだ。
 力の入れ過ぎで小さく震えの走る肩を見て意を決し、差し向かいに腰を下ろす。
 そのまま何も言わずに相手の腕を掴み、握り締めた拳を力ずくで奪い取った。
 ほんの一瞬、引き戻そうとしたあと力の抜けたそれを、胡座に組んだ己の腿の上へと導けば歪めた顔が初めてまともにこちらを見る。

「いきなり何しやがる」

 そう呟くのを他所に、血の筋のへばり付いた甲を取り上げ袖を引き上げた。
 現れた肘先には鉤裂いた布切れが雑に巻かれ、殊更分厚く布の重なった箇所は滲んだ血が固まり掛けている。
 再び俺から視線を外した飛段の目が泳ぎ、放られていた方の手が緩く膝上に皺を寄せた。
 常ならば、言い難そうにしているこの連れを無理に問い詰めたりはしないが、今回ばかりは見て見ぬ振りは出来ない。

「あとどの位で治る? それとも、肉が欠ければそのままなのか?」
 
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