対局圏(迷人戦)

□砂里町暁稲荷時節の小話
2ページ/4ページ


 もぐもぐと口を動かす仔狐の様子をうかがいながら、神主さんは残りの小袋の中身を取り出します。

「食べたかったら残りも食べていいぞ」

 そう言い置いて神主さんは縁台の下の下駄を突っ掛け、物干しまで歩いて行ってしまいました。
 その間にも一つまた一つとチョコレートは減っていきます。
 
 神主さんが洗濯物をすべて取り込み、ついでに近所の商店で買い物を済ませて戻ると、縁台の上で丸くなって寝ている仔狐の姿がそこにありました。
 近付く人の気配にもまったく反応しないで寝こける仔狐の前に、一粒だけハート型のチョコレートが取り残されています。

 薄暗くなってきた表から仔狐とチョコレートの粒を家の中へと運んだ神主さんは、緩く上下する銀色の背中を撫で付けます。

 何かあるかと疑ってはみたものの、どうやら取り越し苦労だったようだな。

 そう考えながら神主さんは最後に残った一粒を口にしました。

 生クリーム風味の少し柔らか目なチョコレートは、甘さは控えめで中々美味しいものでした。
 これなら仔狐と自分で半分ずつにすれば良かったな、と少々自分勝手なことを考えた神主さんですが、そのまま仔狐の背を撫でながらうつらうつらとし始めます。
 やがて半ば倒れ込むようにして大柄な身体が横たわった時、部屋の片隅からカタリと小さな音が起こりました。
 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ