対局圏(迷人戦)
□砂里町暁稲荷時節の小話
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するすると押し入れの上の天袋の戸が開き、中から一つの影が部屋へと降り立ちます。
「さてと……まずは第一段階成功かな」
そう眼鏡をクイと直しながら呟いたのは、仔狐とほぼ同サイズの銀狐でした。
彼はすやすやと寝息を立てる一人と一匹の様子を窺い、ぐっすりと眠っていることを確かめるとおもむろに部屋の中を見回します。
「僕達は必ず過去に繋がる何かを手元に持ってこの世界に存在している、というのが僕の推論なんですけどね」
小さな銀狐は誰かに語り掛けながら居間から出ると、板張りの廊下の奥へと進みます。
そして突き当たりの引き戸の前でピタリと立ち止まりました。
古びた引き戸はとても重そうで、小さな銀狐にはまず開けられそうもありません。
「ここが怪しいですね」
「そう、なら私が手伝ってあげるわ」
不意に今一つの声が聞こえ、スルスルと銀狐の被っていたフードの脇から小さな小さな白蛇が顔を出しました。
ポトリ、と床へと降りた白蛇がおもむろに口を開けると、その喉の奥から鋭い刃が突き出てきます。
優に体長の三十倍ほど延びた刃の切っ先が引き戸と木枠の僅かな隙間に差し込まれ、ゆっくりと戸と隔てられていた向こう側が見えるようになりました。
「大蛇丸さま、もうそのくらいで大丈夫です。あまりご無理はなさらずに」
心配げな銀狐の声に、白蛇はンガンッグと刃を飲み込みます。
その間に数センチ程隙間の空いた引き戸に銀狐は身体を割り込ませ、更に間隔を押し広げました。