対局圏(迷人戦)
□桜を待つ古梅
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固有名詞は出てきませんが角飛+1名のお話であります。
私の住む町には大きな古い梅の木があります。
川岸にあるこの木はとても大きく、川沿いに拓ける今の町がほんの小さな村だった頃からあったそうです。
元々は川に沿ってたくさんの梅の木が植えられていたそうですが、何度かあった洪水やその後の護岸工事で失われてしまいました。
今一本だけ残された梅の古木を町の人はみんな知っています。
毎年もうすぐ春かしらと言う時期まで、白いたくさんの花を咲かせているこの木は何度も新聞の記事にもなったそうです。
従兄の家にお使いにいった帰り道、夕焼けを見ながら川沿いを歩いていくと、梅の木の花がオレンジ色になっていてとても綺麗でした。
梅の木のすぐ側に来た頃には夕日はほとんど沈んでしまい、飛び飛びの街灯がパッと光り出します。
早く帰らないと、と思ったときに突然強い風が吹きました。
風にあおられて、飛ばされそうになったマフラーをギュッと押さえ、私は帰り道を急ぎました。
家に帰ると夕ごはんの支度はもう始まっていて、私は慌ててコートやマフラーを自分の部屋において台所にいる母の手伝いに行きました。
夕ごはんが終わって部屋に戻ると、ハンガーに掛けたマフラーの端に小さな梅の花がついていました。
きっと帰り道で強い風が吹いた時に梅の木から落ちてしまったのでしょう。
毎年、桜の花のつぼみが付きそうになると梅の花が散ってしまうのを思い出し、私は小さな梅の花を押し花にして取っておこうと思いました。