対局圏(迷人戦)
□砂里町暁稲荷余話 その二
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額に大きな傷を付けた青年は店内をざっと見回し、各席の椅子を直しながら机の上を拭いていきます。
褐色に古馴染んだ机とやや色の褪せた椅子は、そこにたくさんの人たちが触れたことを物語っているようです。
最後の一卓をよし、と声掛けて吹き上げると満足そうに頷き、窓の外を覗いて店の奥へと引いて行きました。
「そろそろ暖簾、出しますよ」
菖蒲色をした織り旗を手にした青年が後ろに振り返って声を掛けます。
そして仕切りの向こうからする物音に混じった返事を耳にすると、青年は薄色のガラスのはまった格子戸を開け外へと出ました。
頭上の青空にはモクモクとした雲が一つだけ、のんびりと流れていきます。
「やぁ、今日も一日いい天気になりそうだ」
青年はそっと呟くと、手にしていた暖簾を店先へと吊るし、自分の持ち場へと戻っていきました。